第156章 諦めきれない

その様子を見て、園田円香は思わず首を縮め、後悔に満ちた表情で、自分の舌を噛み切りたいほど自分の軽率な発言を悔やんだ。

たとえ今は新たな始まりだとしても、二人の間にあった不愉快な過去については触れてはいけないことを、よく分かっていたはずなのに。

これは完全に自分で自分を追い込んでしまった!

園田円香は慌てて言い直そうとした。「江口さん、私、冗…」

「談」という言葉を言い終える前に、男の低い声が先に響いた。

「もし君が金を持って逃げるなら、忘れないでくれ……僕も連れて行ってくれ。」

園田円香の言葉は、そのまま喉に詰まってしまった。

彼が怒るだろうと思っていたのに、まさか江口侑樹が怒るどころか、こんな言葉を言ってくれるとは…

江口侑樹が怪我から目覚めて以来、彼の変化、彼の愛情と優しさ、そして新たな始まりを望むという言葉、すべてが夢のようで、現実感がなかった。

まるで地に足がついていないような、いつ足を踏み外してしまうかわからない、そんな感覚だった。

だから自然と、慎重になり、言葉を選び、自信を失っていた。

でも、この瞬間…少しだけ、確かな実感が湧いてきた。

胸の中に様々な感情が溢れ出し、まるで温泉に浸かっているかのように、全身が温かくなった。彼女は唇を動かし、感動と喜びを表現しようとしたが、言葉では足りないように感じた。

思わず体を傾け、赤い唇を男の唇に重ね、キスをした。

言葉で表現できないなら、行動で示そう。これは結婚して以来、初めて心から自発的に彼にキスをしたかった瞬間だった。

たとえ二人の間で…するべきことは全てしていたとしても、こんな風に自分からキスするのは、園田円香の頬を赤く染め、耳まで真っ赤になってしまうほど恥ずかしかった。

何も言わずに、急いで車のロックを解除し、ドアを開けて降り、病院の中へ走って入っていった。

江口侑樹はその場に呆然と立ち尽くし、園田円香の姿が視界から消えるまで、指先で軽く唇に触れた。そこにはまだ彼女の唇の温もりが残っているようで、唇の端がゆっくりと上がっていった。

しばらくその余韻に浸った後、ようやく車を発進させ、アクセルを踏んで走り去った。

園田円香は一気に山田真澄の病室まで走り、まるで猛獣に追われているかのように。ドアを閉め、ドアに背中をもたせかけ、深い呼吸をした。