第167章 犬の鳴き真似

園田円香の表情は変わらず、躊躇することもなく、すぐに答えた。「はい」

吉田希の瞳の奥に不気味な笑みが浮かんだ。先ほど出てきたとき、三人の審査員が安藤吉実を熱心に褒めているのを聞いていたので、わざと園田円香を挑発したのだ。しかし思いがけないことに、園田円香はこんなにも頭が悪く、考えもせずに承諾してしまった。

目立ちたいだけじゃないの?今度こそ、彼女に天と地の差を思い知らせてやる!

後でさくらテレビの入り口で犬の鳴き真似をさせられることを想像すると、さらに得意げになり、胸につかえていた不快感も一気に消え去った。

吉田希は安藤吉実の腕を取り、笑いながら言った。「吉実、行きましょう。コーヒーをおごるわ」

安藤吉実は心配そうに園田円香の方を見たが、何かを言う間もなく、すでに吉田希と他の出場者たちに囲まれて前へ進んでいった。

園田円香は唇の端をかすかに歪め、一人でコーヒーショップへ向かった。

先ほど吉田希と言い合いをしていた松本雪代は、彼女のあまりの落ち着きぶりに興味を持ち、近寄って尋ねた。「円香さん、本当に自分が一位を取れると自信があるの?確かにあなたの演技は良かったけど、安藤吉実も素晴らしかったわ。せいぜい五分五分でしょう。もし負けたら、吉田希の性格を考えると、きっと大々的に宣伝して、あなたの顔を丸つぶれにするわよ!」

園田円香は彼女を一瞥して、「忠告ありがとう」と言った。

それ以上は何も言わなかった。

松本雪代は面白い話を引き出せないと分かると、それ以上追及しなかったが、正直に一言付け加えた。「でも私はあなたに勝ってほしいわ。高慢ちきな吉田希が犬の鳴き真似をする姿が見たいもの!」

園田円香は彼女の言葉に乗らなかった。一つには人の悪口を言うのは好まないこと、二つ目には松本雪代とはそれほど親しくなく、気軽に話せる関係ではないからだ。

園田円香はただ微笑むだけだった。

一行がコーヒーショップに着くと、園田円香は適当に隅の席を選んで座った。

安藤吉実は既に吉田希たちに引っ張られて、別のテーブルに座っていた。

突然、コーヒーショップの入り口で騒がしい声が上がった。何か重要人物が来たようで、皆が顔を上げて見た。

その人物は、人々の視線を浴びながら、まっすぐに園田円香の方へ歩いてきた。