第182章 ちょっと君が恋しい

園田円香はお茶を一口飲み、吐き気を抑えながら立ち上がり、そのまま店を出た。

朝食店を出ると、彼女は顔を上げ、青空を見上げた。太陽は眩しく輝いていたが、その暖かさは彼女の心には届かなかった。

吐き気、怒り、そして悔しさ...様々な感情が体の中で渦巻き、四肢に広がっていった。

しかし、これらの感情では問題は解決できないことも分かっていた。理性的に考えようとしても、彼女は機械ではない。このような不公平な扱いを受けて、平静を保ち、何も感じないでいられるはずがなかった。

今この瞬間、誰かと話がしたかった。

園田円香は思わず携帯を取り出し、慣れた手つきで江口侑樹の番号を押した。

しばらく呼び出し音が鳴り、自動的に切れそうになった時に、ようやく電話に出た。聞き慣れた声が聞こえた。「もしもし。」

園田円香は言いたいことが山ほどあったが、疲れの滲んだ低い声を聞いた途端、言葉を飲み込んでしまった。

彼に愚痴を言うつもりも、問題を解決してもらおうとも思っていなかった。ただ単純に彼の声が聞きたかっただけで、少し話がしたかっただけだった。でも、江口侑樹は非常に鋭い。何気ない一言や、声の調子で何か起きたのではないかと察してしまうかもしれない。

園田円香は軽く唇を噛み、唾を何度か飲み込んで、落ち込んだ気持ちを必死に抑え、できるだけ自然に話しかけた。「まだ忙しい？」

シンガポールの時間では、もう夜の9時を過ぎていた。

「ああ、会議中だ。」

「あ、こんな遅くまで会議なの？」園田円香は申し訳なく感じた。「邪魔しちゃったかな？じゃあ、会議に戻って...」

「大丈夫だ。」江口侑樹が言いながら、向こうで立ち上がる音が聞こえた。「どうした？こんな早く電話してきて。」

「ううん。」園田円香は声を少し落として、甘えるように言った。「ちょっと会いたくなっただけ。」

「そうか。」男性は楽しそうに軽く笑った。「俺も会いたかった。」

「体に気をつけてね。忙しくても休憩を取ってね。私は家で待ってるから。」

「ああ。」

「もう用事ないから、会議に戻って。みんな待ってるでしょ。じゃあ切るね、バイバイ。」

そう言って、園田円香はすぐに電話を切った。

向こうの通話終了音を聞きながら、江口侑樹は携帯を耳から離し、黒い瞳で携帯を見つめ、少し考え込んだ。