彼の言葉は、襟元に付けられたマイクを通して、会場全体に響き渡った。
誰もが驚きを隠せなかった。子供がこのような言葉を突然口にするとは、誰も予想していなかったのだ。
ただ園田円香だけは、表情一つ変えず、黒い瞳で怠そうに、笑顔が一瞬で凍りついた安藤吉実を見つめていた。彼女の唇が僅かに上がった。
聡のお母さんは、最初は子供がついに話せるようになったことを喜んだが、次の瞬間には驚いて、小さな声で言った。「聡、何を言っているの?安藤お姉さんは、あなたを助けてくれたお姉さんよ!命を救ってくれたのに、そんな失礼なことを言っちゃいけませんよ。」
安藤吉実も素早く反応し、無理やり笑顔を作って、とても理解のある様子で言った。「聡くんがついに話せるようになって、私は本当に嬉しいわ。きっと病み上がりで、一時的に間違えただけよ。大丈夫です。お姉さんは今日、花を持ってきてくれてありがとうって言いたいの。」
彼女はしゃがみ込んで、聡に手を伸ばした。「聡くん、お花ありがとう。」
しかし聡はかえって一歩後ずさり、怖がってお母さんの足にしがみついたまま、なおも主張した。「この人は僕を助けてくれたお姉さんじゃない。匂いが違う。」
「匂い?どんな匂いなの?」聡のお母さんは眉をひそめ、少し困惑した様子だった。
安藤吉実の瞳の奥に冷たい光が走った。この重要な場面で、この小僧に台無しにされるとは思わなかった。坂本波の話では、この子はずっと治療を受けていて、話すことができないはずだったのに、どうしてこんな時に話せるようになったのか?
このままでは駄目だ。彼にでたらめを言わせ続ければ、今日の栄誉は全て台無しになってしまう。こんな恥ずかしい思いは絶対にさせられない。
安藤吉実は笑顔を保ったまま、とても優しく聡を見つめて言った。「聡くん、お姉さんが今日は服を着替えて、化粧をして、香水をつけているから、分からなくなっちゃったのかな?大丈夫よ、あなたの体調が良くなって、話せるようになったことが分かっただけで、お姉さんはとても嬉しいの。」
彼女は聡のお母さんの方を向いて、笑いながら言った。「聡くんのお母さん、今日来てくださってありがとうございます。」
聡のお母さんは子供に何か問題が起きるのを恐れ、頷いて言った。「申し訳ありません。受賞おめでとうございます。先に聡を連れて下がらせていただきます。」