安藤吉実は一瞬間を置いて、意味深げに言い終えた。「私たち、敵同士にしかなれないわね」
チャンスをあげたのに。
良い友達になれたはずなのに。
園田円香は突然、中国語が分からなくなったような気がした。安藤吉実のやることのどこが「良い友達になりたい」という意図を示しているというのだろう?
こんなに厚かましく、堂々としている女性を見たことがなかった。
恥知らずという言葉すら知らないのだろう。
園田円香は振り返り、目を上げて彼女の目を見つめ、軽く微笑んだ。「他人の成果を横取りするような友達なら、お断りします」
「敵についてですが」園田円香は嘲笑いながら言った。「あなたは私の目に入る価値もありません」
業務能力は今のところ自分に及ばないし、人格や道徳に至っては、彼女を見下す資格が十分にある!
安藤吉実の唇の端に浮かんでいた笑みが、少し下がった。
園田円香は彼女を一瞥もせず、そのまま立ち去った。
彼女はキャスターなので、オフィスは3階にある。先ほど宇野晴華が案内してくれたので、そのまま向かった。
オフィスフロアに入ると、他の同僚たちが次々と顔を上げて彼女を見つめ、すぐに友好的に挨拶を交わした。園田円香も一つ一つ返した。
ツインテールの丸顔の女の子が近づいてきて、にこにこしながら挨拶した。「園田キャスター、こんにちは。私はこのフロアの共有秘書で、キャスターの皆様のお世話をさせていただいています。野村丸美と申します。野村か丸美どちらでも呼んでください」
「こんにちは、丸美さん」園田円香は丁寧に挨拶を返した。
「今後何かご用がありましたら、いつでもおっしゃってください」
「はい、分かりました」
「では、あなたの席までご案内しますね。既に清掃も済ませて、事務用品も全て用意してあります」
野村丸美は話しながら、彼女を案内した。
「ありがとうございます」
席に着くと、野村丸美は左側を指さして、「こちらがあなたの席で、右側は別の新入社員の席です。同じ日に入社されたので、隣同士になっています。他に空いている席もないんです」
そう言いながら、園田円香をちらりと見て、声を少し落として、「園田キャスター、大丈夫ですか?」
園田円香は彼女の意図を理解していた。結局、彼女と安藤吉実の間の出来事は誰もが知るところとなっていたのだから。