第206話 今夜はちょっと我慢してね

正義。

江口侑樹の人を見る目は常に正確で、彼がこのような高評価を与えるなら、田中朝一教授は本当に良い人だということの証明だ。

「うん、分かったわ。ありがとう、ダーリン!」

園田円香はそう言うと、躊躇なく江口侑樹の膝から立ち上がり、少しの未練もなく、むしろ全ての注意が彼女の資料の山に向けられ、江口侑樹には半分の視線も向けなかった。

江口侑樹は呆れて笑い、眉を上げて、「これは、恩を仇で返すということか?」

「違うわ違うわ、あなたは私の心の中で永遠に一番よ!」園田円香は顔も上げずに返事した。

「この薄情者め!」江口侑樹は大きな手で彼女の腰を掴んだ。「今日はわざわざ帰ってきたのに、君の心の中は仕事のことばかりだ。」

園田円香は腰が少し敏感で、何度か逃げようとしたが逃げられず、仕方なく再び視線を男の顔に戻した。彼女は両手で彼の顔を包み、彼の唇にキスをした。「今夜はちょっと我慢してね、これが終わったらちゃんと相手するから、いい?」

男は長い指で彼女の頬をつついた。

彼女の哀れっぽい大きな瞳を見ていると、まるで魔法にかかったかのように、簡単に頷いてしまい、さらに思いやりを込めて言った。「あまり遅くまで働かないでね。」

「はい、承知しました~」園田円香は二本の指を立て、茶目っ気たっぷりに敬礼のポーズをとった。

江口侑樹は園田円香への拘束を解き、立ち上がり、大きな手で彼女の頭を優しく撫でてから、書斎を出て行った。

園田円香は回転椅子に座り直し、仕事を続けた。

翌日。

仕事用のグループチャットで今日の田中朝一のスケジュールが共有された。彼は五つ星ホテルで座談会に参加する予定で、これが彼の最近唯一の公開活動だった。そのため、彼にインタビューするチャンスを掴むには、この機会を逃してはいけなかった。

園田円香は安藤吉実と他の二人のアナウンサーと共に会社の車で向かったが、個人戦なので、ホテルに着いてからは別々に行動した。

そこからは各自の実力勝負だった。

座談会は15分後に終了する予定で、すでに会議室の入り口には記者たちが群がっていた。昨日の大学でのように。

園田円香は前に押し寄せようとはしなかった。一つには押し入れないだろうということ、二つ目は、たとえ押し入れたとしても、これだけの人数がいれば、質問する順番が回ってくる可能性は低かった。