第255章 向き合えない

黒田時久はオフィスにそれほど長く留まらず、数分ほどで再びドアを開けて出てきた。

鈴木秘書は慌てて立ち上がり、恭しく言った。「黒田さん、お気をつけて。」

「いい、見送りは不要だ。」

そう言い残して、黒田時久は颯爽と去っていった。

…

別荘にて。

園田円香は江川おばあさんを支えて座らせ、田中が持ってきた花茶を受け取り、数口飲ませた。

そして彼女は優しくおばあさんの背中をさすりながら、柔らかな声で尋ねた。「おばあさま、よくなりましたか？」

江川おばあさんは頷いた。「安藤吉実を見なければ、何も問題ないわ！」

田中は思わず憤慨して言った。「この前おばあさまが安藤吉実に会った時、もう目の前に現れるなと警告したのに、今日またやって来るなんて、本当に厚かましい！」

その名前を聞いただけで江川おばあさんは頭痛がした。彼女は嫌悪感と軽蔑を隠そうともせずに言った。「もう彼女の話はやめて。今すぐ管理事務所に電話して、今後この区域に入れないようにしなさい！」

田中は頷いた。「すぐに手配いたします。」

彼女は振り返って電話をかけに行った。

園田円香はずっと江川おばあさんの呼吸を整えるのを手伝っていた。おばあさんの呼吸が徐々に落ち着いてきたところで、彼女の手を握り、言った。「もういいのよ、私は大丈夫。それより、あなたは大丈夫？」

「え？」園田円香は一瞬反応できなかった。

江川おばあさんは説明した。「今朝私が帰ってきた時、侑樹が言っていたわ。あなたの具合が悪いって。でも彼は重要な会議があって会社に戻らなければならなかったから、私と田中にあなたを見ていてほしいと。会議が終わったらすぐに戻ってくるって。さっき起こしてしまったかしら？体調はどう？」

江口侑樹が見当たらなかった理由が分かって…

園田円香の心は少し安堵した。

彼女は軽く首を振って、「昨日ちょっと低血糖になっただけで、寝たら大丈夫になりました。おばあさま、心配しないでください。」

「どうして低血糖になったの？私と田中が家にいない時は、また食事をちゃんと取らなかったでしょう？」江川おばあさんは怒ったふりをした。

園田円香は即座に江川おばあさんの腕に抱きつき、甘えた口調で謝った。「おばあさま、ごめんなさい。約束します、これからは毎日きちんと時間通りに食事を取ります！」