第283章 人が消えた

園田円香は残りの力を振り絞って、最後の一言を吐き出した。「出て行け!」

江口侑樹はドアを開け、一瞬の躊躇もなく部屋を出て行った。

ドアの外で待機していた安藤秘書は、彼が出てくるのを見て、その身から放たれる極寒の空気を感じ取り、小さな心臓が震えた。

江口侑樹が外へ向かうのを見て、彼は無意識に後を追おうとした。

江口侑樹は足を止め、振り返ることなく冷たく命じた。「ついて来る必要はない。ここに残れ」

「……はい」

安藤秘書はその場に立ち尽くし、自分の上司が遠ざかっていく姿を見つめながら、病室から聞こえる崩壊的な泣き声を聞いて、深いため息をついた。

一体何が起きているんだ!

ドアがゆっくりと閉まり、園田円香の視界を完全に遮った。

彼女の全ての力が抜け落ち、ベッドの頭に柔らかく寄りかかったまま、真珠の首飾りが切れたかのように、涙が一粒一粒こぼれ落ちた。

学生の頃、彼女は一冊の本を読んだことがあった。本にはこう書かれていた。

勇気ある少女よ、恋を見つけたら、しっかりと掴みなさい。

その時、江口侑樹が彼女の窓の傍を通り過ぎた。少年の背の高い姿が陽光を纏って歩いてきて、彼女は無意識に手を伸ばして掴もうとした。

彼女はこれが自分の恋だと思った。きっとしっかりと掴むはずだと。

二年前、彼女は自分の勇気が足りなかったのかもしれないと思った。最後まで頑張れなかったから、逃してしまったのだと。

でも今、これだけのことをして、頑張って、努力して、勇気も出したのに、それでも掴めなかった……

嘘だ。

全部嘘だ。

園田円香は両手で顔を覆い、声を上げて泣いた。

染野早紀が駆けつけた時、ちょうどその場面に遭遇した。彼女は数歩で前に出て、園田円香を抱きしめた。

彼女は優しく円香の頭を撫でながら、心痛めて見つめた。「円香、遅くなってごめん」

もっと早く来ていれば、江口侑樹というクズ男を八つ裂きにできたのに。

円香がずっと彼に機会を与え、言い訳を探してあげていたのに、彼はこんな形で裏切るなんて!

やっぱり男なんて、ろくなものじゃない!

園田円香が息が詰まりそうなほど泣いているのを聞いて、染野早紀はクズ男の悪口を言うのも忘れ、急いで我に返り、彼女の背中を優しく叩きながら慰めた。「円香、もう泣かないで。体が弱っているんだから、赤ちゃんにも良くないわ」