彼女は部屋に駆け戻り、携帯電話を手に取って園田円香に電話をかけた。
しかし次の瞬間、向こう側のベッドサイドテーブルから携帯電話の着信音が鳴り響いた。
染野早紀は呆然と見つめた。
携帯電話すら持っていないなんて……
このマンションはセキュリティが極めて高く、侵入者による誘拐事件が起こる可能性は低いものの、誰かが密かに園田円香を連れ去ったのではないかと疑わずにはいられなかった。
昨日の円香はいつもと違って、泣きもせず騒ぎもしなかった。彼女が心配なのは、精神的に完全に崩壊して、何か愚かなことをしてしまうのではないかということだった。
自分が油断していたのが悪かった。
もし円香に何かあったら、自分を許すことはできない。
染野早紀は急いで着替えると、車のキーを掴んで外に飛び出した。
車に乗り込むと、Bluetoothイヤホンを装着し、道路を探しながら電話をかけ始めた。
…
江川グループ、社長室。
江口侑樹が安藤秘書から今日のスケジュールの報告を聞いているとき、突然携帯電話が鳴った。一瞥すると染野早紀からの着信だった。指先で机を軽く叩き、携帯電話を手に取って応答した。「もしもし。」
安藤秘書は空気を読んで話を止めた。
染野早紀の冷たい声が聞こえてきた。「江口侑樹、円香はあなたのところに来ていない?」
「いいえ。」江口侑樹は淡々と答えた。
染野早紀はそれを聞いて、すぐに爆発した。「何よ?『いいえ』だけで終わり?円香が行方不明で、携帯電話も持っていないのよ。建前だけでも心配する一言くらい言えるでしょう?」
さらに声を荒げて続けた。「江口侑樹、言っておくわ。円香に何かあったら、絶対にあなたと徹底的に戦うわよ!」
そして躊躇なく電話を切った。
この犬畜生のような男たちに良心を期待するなんて、本当に太陽が西から昇るようなものね。
腹が立つだけ!
傍らで聞いていた安藤秘書は心の中で秦野夫人に大きな親指を立てた。さすが女傑、天も地も恐れないとはこのことだ。
しかし同時に深い懸念も抱いていた。
奥様は昨日あれほど悲しみ、病院を去る時はあんなに憔悴していた。今日また姿を消してしまって、本当に何か起こるのではないだろうか?
そう考えていると、安藤秘書は自分のボスが携帯電話を置き、口を開くのを見た。
彼は言った。「続けて。」