第297章 最後の切り札

電話が数回鳴って、向こうが応答した。

園田円香は口を開いた。「後藤先生、私です。円香です。」

「ええ」後藤淑子は淡々と応じ、いつもの厳しい口調で答えた。

彼女は江口侑樹との離婚が成立した。そうなると、次は正当な理由で、ここを離れ、海外へ行き、安心して妊娠期間を過ごすことができる。

園田円香は真剣に言った。「先日お話しした応募のことですが、よく考えました。やはり私は…」

しかし彼女の言葉は途中で、後藤淑子に遮られた。「円香、今日は私からも本音を言わせてもらうわ。私はあなたに残ってほしいの。私の後継者として育てたいと思っているの。だから、もう一度よく考えてみて!」

園田円香は軽く唇を噛んだ。

最近の一連の出来事を知る前なら、この言葉を聞いてどれほど嬉しかっただろう。

でも今は、母親として、まず赤ちゃんのことを考えなければならない。

一時的に、いくつかのものを諦めざるを得ない。

園田円香の声は少し低くなったが、口調は依然として固かった。「後藤先生、本当に、よく考えた上での決断です。」

後藤淑子は明らかに不機嫌になり、声が冷たくなった。「理由を聞かせて。私を納得させられれば、承諾するわ!」

彼女は知っていた。園田円香が大変な努力をしてさくらテレビに入り、自分のチームにやってきたことを。彼女が理由もなく諦めるような人間ではないと。

それどころか、園田円香はいつも非常に粘り強い女性だった。

園田円香は数秒沈黙した後、一字一字はっきりと言った。「後藤先生、私、離婚しました。」

「離婚?」

大風大波を見慣れ、常に冷静沈着な後藤淑子でさえ、驚いて声が高くなった。誰もが知っている、江口侑樹と園田円香は非常に仲の良い夫婦だったのに!

以前、江川グループが園田円香に連座して危機に直面した時でさえ、江口侑樹は園田円香と縁を切ることを拒んだのに、どうして…突然、静かに離婚したのだろう?

後藤淑子はもう一度確認した。「本当?」

園田円香は軽く「はい」と答えた。「本当です。」

「いつの事?」

「たった今です。」

後藤淑子:「…………」

あれほど雄弁な彼女が、初めて返す言葉を失った。

突然、彼女は昨夜安藤吉実がニュース生放送で話した内容と、ネット上で盛んに議論されている不倫された家庭がどの家庭なのかを思い出した。

どうやら、答えはこれなのか?