第351章 会いましょう、妻よ

園田円香の心臓が、かすかに跳ねた。

彼女は軽く唇を噛み、指先でスマートフォンの画面をスライドさせ、電話に出た。「もしもし。」

向こうから男の低くて心地よい、しかし冷たい声が聞こえてきた。「会おう。」

一瞬の間を置いて、彼は冗談めかした、そして何か言い知れない意味を含んだ口調で、さらに二文字を吐き出した。「奥さん。」

「……」

園田円香は携帯電話を握る手を、無意識に強く握りしめた。

彼女と江口侑樹はまだ正式に離婚していない、法律上では彼らはまだ合法的な夫婦で、彼がこう呼ぶのは、確かに間違いではない。

ただ……この江口侑樹が一体どういう状況なのか分からない中で、それを聞くのは、居心地が悪かった。

園田円香は気持ちを落ち着かせ、口を開いた。「いいわ。」

彼女がためらいもなく承諾するとは思っていなかったようで、江口侑樹は少し驚いた様子だった。彼は向こうで一瞬黙り込んでから、軽く笑って言った。「車は既に病院の入り口で待っている。」

園田円香も思わず嘲笑した。「もし私が断ったら、強制的に連れて行くつもりだったの？」

車まで既に来ているなんて、そこまで執着しているなんて。

江口侑樹は彼女の言葉に怒る様子もなく、むしろ面白そうに返した。「そういう遊び方が好きなら、それでもいいよ。」

園田円香は即座に電話を切った。

耳元で聞こえる通話終了音に、江口侑樹は口角を歪め、瞳の奥に不明な光が浮かんだ。

園田円香は携帯を置くと、染野早紀に向かって言った。「江口侑樹に会いに行くわ！」

「私も一緒に行く！」染野早紀は考えるまでもなく言った。

江口侑樹は今や極めて危険な狂人で、円香を一人で会わせるのが心配だった。もし彼が何かするつもりだったら！

園田円香は首を振った。「早紀、私一人で会わないと。心配しないで、今の江口侑樹の性格なら、もし私の命が欲しいなら、車じゃなく殺し屋を寄越してるはずよ！」

その通りではあった。

染野早紀は眉をしかめて彼女を見つめ、口を開きかけたが、最後には深いため息をつくだけだった。

「絶対に気を付けてね、何か変だと思ったら、すぐに私に連絡して！」

「分かった！」園田円香は約束した。