第350章 本物の江口侑樹ではない

番号はまだ非表示のままだった。

彼女は考えることもなく、すぐに通話ボタンを押して携帯を耳に当て、震える声で一言、「もしもし？」と呼びかけた。

ボイスチェンジャーを通した謎の人物の声が響いた。いつものように本題に入った。「園田さん、あなたのお子さんは今のところまだ生きています。」

生きている……

園田円香の宙吊りになっていた心が少し緩んだ。

この謎の人物は不気味な部分が多々あったが、少なくとも離婚証明書が偽物だという件については、彼の言っていたことは本当だった。だから彼女は不思議と彼の言葉を信じたくなった。智則はまだ生きている！

ただし「今のところ」という言葉に、彼女の神経は再び緊張した。下唇を強く噛んで、開口した。「彼がどこにいるか知っていますか？」

謎の人物の声は冷静で無感情だった。「知りません。」

「……」園田円香は眉間にしわを寄せた。「じゃあ、この電話の意味は何なんですか？」

謎の人物は答えた。「あなたのお子さんを救えるのは、江口侑樹だけです。」

その言葉に、園田円香は冷笑したくなった。

彼女の智則は江口侑樹が命令して連れ去らせたのだ。智則の命は当然彼の手の中にある。でも彼が智則を解放するはずがない。

「何を無駄なことを言っているんですか？」

普段なら、園田円香もここまで失礼にはならなかっただろう。しかし今は焦りと疲労で精神的に限界で、感情をコントロールできなかった！

謎の人物は怒る様子もなく、相変わらずロボットのような冷静で無感情な口調で、答えずに逆に質問してきた。「今回、江口侑樹と接触して、何か違和感を感じませんでしたか？」

確かに感じていた。江口侑樹は完全に別人のようになっていた。性格も気性も、さらには生活習慣や細かな仕草まで、かつて彼女が知っていた人物とは全く異なっていた。

でもそれがどうしたというのか。それが彼女とどんな関係があるというのか。

園田円香は謎の人物の回りくどい言い方にイライラし、声も冷たくなった。「あなたは一体何を知っているんですか？」

謎の人物は答えた。「私は何も知りません。」

園田円香は普段そうそう人に怒りを爆発させることはなかったが、この謎の人物には電話線を通り抜けて、彼を引っ張り出してボコボコにしたいほど腹が立った。

「じゃあ、もう話すことはありませんね！」