第362章 彼は彼女に手を出せなかった

染野早紀は驚いて「どんな方法?」と尋ねた。

「おばあさんは江川グループの株式を全部私に譲渡してくれたの。今や私は江川グループの第二大株主よ。おばあさんは以前から表舞台から退いて、グループの意思決定には関与していないけど、ずっと江川氏に在籍していたわ」と園田円香はゆっくりと説明した。

染野早紀はすぐに理解した。「つまり...おばあさんの代わりに、江川グループで働くつもり?」

園田円香は「うん」と答えた。

「確かにそれは一つの方法ね。でも...」染野早紀は眉をひそめ、心配そうな声で続けた。「今日の取締役会での出来事で江口侑樹は怒っているわ。あなたが江川氏で働くなんて、彼が許すはずがない。今の彼は何をするか分からないから、心配で...」

染野早紀が言おうとしていることを理解した園田円香は、すぐに遮った。「早紀、虎穴に入らずんば虎子を得ずよ。分かるでしょう、私には選択肢がないの」

一日遅れるごとに、智則の安全が危うくなる。

彼女は毎晩悪夢を見て目が覚める。目覚めた時に智則が見えない不安が、彼女の心を強く締め付けていた。

子供がまだ生きているという希望がなければ、それを支えにして前に進めなければ、彼女はとっくに崩れ落ちていただろう。

染野早紀も一度は「母親」だった。子供を守りたいのに守れない気持ちがよく分かっていた。唇を動かしたものの、もう制止の言葉は出てこなかった。

最後に、彼女は笑顔を作って言った。「じゃあ約束して。必ず細心の注意を払うって」

「もちろん。智則に会えるまでは、どんなことがあっても自分に何かあるわけにはいかないわ」

電話を切った後、園田円香は椅子の背もたれに寄りかかった。

実は彼女も自信がなかった。これからどんな危険や障害に遭遇するか分からない。でも智則のことを思うと、何も怖くなかった。

彼を産んでから、あんなに小さかった彼が少しずつ成長していく姿を見守ってきた三年間の歳月。一分一秒、一つ一つの思い出が、すべて彼女の心に刻まれていた。

彼女は思った。もし智則がいなければ、あの寒い海辺で、殺し屋の口から「江川社長」という言葉を聞いた時、彼女はもう死んでいただろう。

深く愛した人に裏切られるなんて、簡単に乗り越えられるものではない。

今日の江口侑樹のオフィスでの出来事が脳裏に浮かび、彼女は無意識に再び首に手を当てた。