第388章 先生の出現

彼女は震える声で話し始めた。「先……先生……」

最初、彼女は先生が今夜の年次総会に出席するという知らせを受けていたが、会場に着いてからずっと先生の姿を見かけなかった。

もし出席していれば、当然VIPとして扱われるはずだった。

だから彼女は、今日は他の用事があるか、何か別の理由で来られなかったのだろうと思っていた。

しかし、まさか……彼は来ていたのだ。ただ、身分を明かさず、控えめにしていただけだった。

安藤吉実の顔に極度の恐怖が走った。

つまり、今夜園田円香を陥れようとしたのに、逆に園田円香に策略を見透かされ、完全に打ちのめされてしまったということ。

自分の失態を、先生に全て見られていたのだろうか?

「先生、私は……」安藤吉実は必死に何かを説明しようとした。

先生は唇を開き、彼女の言葉を遮った。「立ちなさい」

その声には空虚さがあり、人を寄せ付けない威厳を感じさせた。

残りの言葉を飲み込まざるを得なかった安藤吉実は、おずおずと手を伸ばし、先生の手のひらに触れ、その力を借りてゆっくりと立ち上がった。

洗面所の中。

園田円香は気持ちを落ち着かせ、蛇口をひねって手を洗った。

そして、バッグからフェイスパウダーと口紅を取り出し、軽くメイク直しをし、髪とドレスも整えた。

鏡の中の自分を見て、変顔をして表情を緩めた。

先ほど安藤吉実が智則のことを持ち出した時、確かに少し感情的になってしまった。まだ安藤吉実に手を出すべき時ではないのだから。

今の第二人格の江口侑樹は、安藤吉実を愛しているにせよ、主人格を抑制するために彼女を必要としているにせよ、安藤吉実を守るだろう。

今は江口侑樹とうまく付き合っていかなければならない。表立って対立するわけにはいかない。

それに、安藤吉実を殺せば自分も命を落とすことになる。そんな価値もない女のために!

それに、このまま安藤吉実を死なせてしまうのは、むしろ彼女にとって楽になってしまう。必ず……生きた心地がしないほどの苦しみを味わわせてやる!

携帯電話がチリンと何度か鳴った。

園田円香は我に返り、携帯電話を手に取って確認した。

染野早紀からのLINEメッセージで、お世辞たっぷりに彼女のやり方を褒め称えていた!

園田円香は思わず口角を上げた。