河野並木が河野家の大邸宅に戻ると、使用人たちは皆恭しく「坊ちゃま!」と呼びかけた。
河野並木は「お爺さんは?」と尋ねた。
使用人は「裏庭の池で釣りをしています」と答えた。
「分かった」河野並木は頷いて、そのまま裏庭へ向かった。
河野並木の両親は彼が戻ってきたと聞いて、すでに中庭で待っていた。
彼の姿を見るなり、河野のお母さんは感動で目に涙を浮かべ、「並木!」と呼びかけた。
そう言って前に出ようとしたが、何かを気にしているようで、前に出る勇気が出ず、ただじっと見つめるだけだった。
しかし河野並木は両親の感動した様子に気付かず、二人に向かって恭しく「お父様、お母様!」と呼びかけた。
とても敬意を込めた呼び方だが、親しみが足りなかった。
まるで親子関係というより、上司と部下の関係のようだった。