「どの家のお嬢さんがそんなに無礼なの?和泉名医のことまで悪く言うなんて!」と藤原琳は興味深げに尋ねた。
河内市どころか、大和国全体を見渡しても、和泉名医のことをそんな風に言える人はほとんどいないだろう!
藤原宙は言った。「誰の家の子かは分からないけど。とにかく腹が立つよ!もし私の娘だったら、しっかりと躾けるところだ!」
今でも、藤原宙はさっきの出来事を思い出すと腹が立って仕方がない。
和泉名医は若い頃から彼が尊敬していた人物だった。
藤原琳は笑いながら言った。「今時の若者はみんなそうよ。落ち着きがなくて、ちょっとした成果を出しただけで天下を取ったような気になって、実際は何者でもないのに。そんな人と同じレベルで話す必要なんてないわ」
「そうだな」と藤原宙は頷いた。
しばらくして、使用人が煎じた薬を持ってきた。「奥様、お薬が出来ました」
それを聞いて、上條迎子はベッドから興奮して起き上がった。「早く頂戴」
上條迎子は薬椀を受け取り、一口飲んで眉をひそめた。
とても苦い!
でも、すぐに容姿が元に戻ることを考えると、我慢して全部飲み干した。
薬を飲み終わると、上條迎子はうとうとと眠りについた。
藤原琳は眠りについた娘を見て、やっと胸をなでおろした。
娘が容姿を損なってから、一度もぐっすり眠れたことがなく、眠れても悪夢にうなされて目が覚めていた。
藤原琳は藤原宙を見上げ、小声で言った。「今回は本当にありがとう」
和泉名医は何年も診察をしていなかったが、今回藤原宙は大きな代価を払って来てもらったのだ。
「私がすべきことをしただけだ」と藤原宙は答えた。
藤原琳は続けて尋ねた。「和泉名医はまた来てくれるの?」
上條迎子は薬を飲んだものの、和泉名医本人を見ないと少し不安だった。
藤原宙は頷いて、「三日後に再診に来ると言っていた」
「そう」
......
一方。
如月家。
半月以上外で忙しく働いていた如月志弘がようやく帰宅した。
彼は今年64歳だが、実年齢が全く分からないほどで、よく息子たちと並ぶと兄弟のようだと冗談を言われる。
「やっと帰ってきたの?」早坂明慧は如月志弘を見て、良い顔をしなかった。
如月志弘は妻の不機嫌な顔を見て、困惑した様子で「どうしたんだ?」