篠崎澪は頷いて、笑いながら言った。「お嬢様の婚約者は、この子をよく育てていらっしゃいますね」
ただの雑種猫とはいえ、毛並みは艶やかで、体格も立派で、異臭もなく、飼い主がこの子を大切にし、心を込めて育てていることが分かった。
考えるまでもなく、猫の飼い主もきっと優雅な心の持ち主に違いない。
「ありがとうございます」
篠崎澪は身を屈めて、猫を如月廷真に返した。
如月廷真は猫を受け取った。
まんたんは賢く、篠崎澪の頭にすり寄った。
まるで篠崎澪と別れたくないかのように。
なぜだか、篠崎澪はこの猫と縁があると感じ、手を伸ばしてまんたんの頭を撫でた。「小さな子、また会えるといいね」
「お母さん」そのとき、蒼井紫苑がトイレの方向から小走りで近づいてきた。
「紫苑」篠崎澪は蒼井紫苑の手を取り、「行きましょう」