070:まさか彼女だったなんて!

篠崎澪は頷いて、笑いながら言った。「お嬢様の婚約者は、この子をよく育てていらっしゃいますね」

ただの雑種猫とはいえ、毛並みは艶やかで、体格も立派で、異臭もなく、飼い主がこの子を大切にし、心を込めて育てていることが分かった。

考えるまでもなく、猫の飼い主もきっと優雅な心の持ち主に違いない。

「ありがとうございます」

篠崎澪は身を屈めて、猫を如月廷真に返した。

如月廷真は猫を受け取った。

まんたんは賢く、篠崎澪の頭にすり寄った。

まるで篠崎澪と別れたくないかのように。

なぜだか、篠崎澪はこの猫と縁があると感じ、手を伸ばしてまんたんの頭を撫でた。「小さな子、また会えるといいね」

「お母さん」そのとき、蒼井紫苑がトイレの方向から小走りで近づいてきた。

「紫苑」篠崎澪は蒼井紫苑の手を取り、「行きましょう」