篠崎登世は頷いた。「その通りね」
その時、篠崎登世の若い助手が横から駆けてきた。
「どうしたの?」篠崎登世は振り返った。
助手は言った。「真壁教授がお呼びです。採点のことでご相談したいそうです」
それを聞いて、篠崎登世は林朝日の方を向いた。「林さん、ちょっと行ってきます」
林朝日は頷いた。
「どうぞ!」
篠崎登世は急ぎ足で助手と一緒に立ち去った。
篠崎登世の後ろ姿を見ながら、林朝日は隣の助手に向かって、小声で尋ねた。「朝倉君、篠崎教授の弟子は河内市一の才女だって聞いたけど、本当かい?」
朝倉は頷いた。「はい、その通りです」
河内市一の才女。
河内市には二千万以上の人口がいて、外来人口を除いてもだ。河内市一の才女という称号を得るのは容易なことではない。
どうやら、蒼井真緒はバイオリンだけでなく、他の面でも非常に優秀なようだ。
まだ十八歳の少女で、このような成果を上げるなんて、本当に素晴らしい!
林朝日は心の中で感嘆した。
篠崎登世は今回本当に掘り出し物を見つけたものだ。
......
バイオリンコンクールまであと三十分。
蒼井真緒はバイオリンを持って、専用の控室に座り、練習を始めた。
控室の防音効果は非常に良く、外からは全く音が聞こえない。
名師から高弟が育つというのは、根拠のない話ではない。
篠崎登世の指導を受けてからこの期間、彼女のバイオリンの技術は飛躍的に向上した。
バイオリンの音色は以前よりも自然で優美になった。
このコンクールに参加している人たちを圧倒するのは、もちろん簡単なことだ。
元々は白川芙蓉が自分を超えるのではないかと心配していた。
今は......
全く心配する必要がない。
蒼井真緒は弓を引きながら、口角の弧がますます明確になった。
コンコンコン。
ドアの外からノックの音が聞こえた。
蒼井真緒はバイオリンを置いて、ドアを開けに行った。
「真緒!」
ドアの外から現れたのは他でもない、蒼井真緒の親友である朝倉瑠璃子と林梔子だった。
二人は興奮した表情を浮かべていた。
「真緒、知ってる?あの田舎者、本当にコンクールに参加したのよ!」
「うん」蒼井真緒は頷いた。「見たわ。でも彼女は私の姉なんだから、これからはそんな風に言わないで」
蒼井華和はいつも人の真似をするのが得意だった。