蒼井真緒は如月廷真を見つめ、良い気分が半分消えてしまった。
考えるまでもなく、如月廷真がここに現れた理由は分かっていた。
きっと彼女のために来たのだろう。
蒼井真緒には理解できなかった。これほどの出来事があったのに、なぜ如月廷真は彼女に未練を持ち続けているのか。
やはり、役立たずは役立たずだ。
如月廷真にどれだけはっきりと言っても、自分のことが分からないのだ。
蒼井真緒は心の中のいらだちを抑えた。
今日は静園さんも会場にいる。失態は許されない。
静園さんに最高の自分を見せなければならない。
そのとき。
背後から篠崎登世の声が聞こえた。
「真緒」
「先生、どうかしましたか?」蒼井真緒は振り返った。
篠崎教授は笑いながら言った。「先輩を紹介させてください」
そう言って、隣にいる少し太めの中年男性を指さして言った。「こちらは国際バイオリン協会の副会長、林朝日さんです。林さん、これが私が先ほどお話しした新しい弟子の蒼井真緒です」