090:名実共に相応しい第1位(1万字の章)

蒼井真緒は如月廷真を見つめ、良い気分が半分消えてしまった。

考えるまでもなく、如月廷真がここに現れた理由は分かっていた。

きっと彼女のために来たのだろう。

蒼井真緒には理解できなかった。これほどの出来事があったのに、なぜ如月廷真は彼女に未練を持ち続けているのか。

やはり、役立たずは役立たずだ。

如月廷真にどれだけはっきりと言っても、自分のことが分からないのだ。

蒼井真緒は心の中のいらだちを抑えた。

今日は静園さんも会場にいる。失態は許されない。

静園さんに最高の自分を見せなければならない。

そのとき。

背後から篠崎登世の声が聞こえた。

「真緒」

「先生、どうかしましたか?」蒼井真緒は振り返った。

篠崎教授は笑いながら言った。「先輩を紹介させてください」

そう言って、隣にいる少し太めの中年男性を指さして言った。「こちらは国際バイオリン協会の副会長、林朝日さんです。林さん、これが私が先ほどお話しした新しい弟子の蒼井真緒です」

「林副會長、はじめまして」

蒼井真緒の顔に上品な笑みが浮かんだ。

林朝日は頷きながら、蒼井真緒を見て言った。「篠崎教授が最近、才能のある弟子を取ったと聞いていましたが、まさに百聞は一見にしかずですね。今日の演奏が楽しみです。舞台に上がっても緊張しないで、私たちを大根でも見るような気持ちで演奏してください」

篠崎登世は稀有なバイオリニストで、バイオリン研究のため、近年は海外に住んでいた。

篠崎登世に認められる人はほとんどいない、というよりもゼロに等しかった。

篠崎登世が蒼井真緒を弟子として受け入れたということは、この若い女性の実力が侮れないということを十分に物語っている。

どうやら。

バイオリン界にまた新しい風が吹き込まれそうだ。

もし蒼井真緒の実力が本当にそれほど強いのなら、彼らバイオリン協会はどんな努力を払っても、蒼井真緒を協会に加入させるだろう。

そうなれば、蒼井真緒はバイオリン界最年少の上級会員となるだろう。

実は、林朝日は特に蒼井真緒のために来たのだ。

篠崎登世にこんな人材を海外に連れて行かれるわけにはいかない。

結局のところ、篠崎登世は今C国のバイオリン協会の会長なのだから。

「ありがとうございます、林副會長。頑張ります」

林朝日は頷いた。