「父さん、もう昔の時代じゃないんだ。誰を駒にしたいなら、その人を探せばいいでしょう!」
どうせ彼は駒になるつもりはなかった。
「何だと?」若松満志は激怒した。
「私は誰かの思い通りになる駒にはならないと言ったんです。」
父子は一触即発の状態で、もはや収拾がつかなくなりそうな雰囲気の中、若松岳登は再び立ち上がり、若松満志の前に歩み寄った。「お父さん、急に思い出したんですが、確認していただきたい契約書があります。書斎で見ていただけませんか。」
若松岳登はそう言いながら、若松満志を書斎へと連れて行った。
階段口で、若松満志は突然足を止め、若松峰也の方を振り返った。「三日以内にあの役立たずとの関係を絶つように。さもなければ、私、若松満志はお前を息子と認めない!」
その言葉を聞いて、若松岳登は目を細めた。
若松峰也は自嘲的に笑った。「父さんの心の中では、とっくに私を息子と思っていないんでしょう?」
「この!」
若松満志は若松峰也を指差し、顔面の血管が浮き出ていた。
若松岳登は彼を書斎の方向へ引っ張っていった。
若松岳登が若松満志を書斎に連れて行くまで、月島紅香は若松峰也の側に寄って来た。「峰也、なぜ岳登のようにお父さんの機嫌を取ることができないの?」
父子の間で、こんな風になる必要はないのに、若松岳登に得をさせてしまう。
言い終わると、月島紅香はため息をつき、続けた。「朝倉家には朝倉望結という一人娘しかいないのよ。もし彼女と結婚すれば、若松岳登でさえあなたの顔色を伺うことになるわ!」
若松峰也は月島紅香を見つめた。「母さん、僕は女に頼って成功したくないんです。」
月島紅香は仕方なくため息をついた。「峰也、これも実力の一つよ。朝倉望結がなぜ若松岳登を気に入らないのかしら?」
「あなたはただ性格が強すぎるのよ!」
「母さん、父さんと結婚してこの何年間、幸せでしたか?」若松峰也は尋ねた。
この一見単純な質問は、月島紅香を立ち尽くさせた。
彼女は幸せだったのだろうか?
若松満志との二十年以上の結婚生活で、一人の息子を育てたが、自分が幸せかどうかも分からない。
ただ一つ確かなことは。
彼女が最初に好きだった人は若松満志ではなかった。
若松満志が好きだった人も彼女ではなかった。
彼らは家族の政略結婚の犠牲者だった。