この言葉を聞いて、蒼井華和は淡く微笑み、頬にえくぼができた。
「いいわ」
たった一言。
橘忻乃はほっと息をついた。
彼女は蒼井華和が「いいわ」と言うのが一番好きだった。
彼女が「いいわ」と言うのを聞くと、どんな困難も、どんなプレッシャーも乗り越えられる気がした。
やはりタピオカミルクティーの魅力は大きい。
そのとき、空気の中に司会者の声が響いた。
「次は、108番の選手にステージをお願いします。本日最後の出場者で、北橋高校3年5組の蒼井華和さんです。」
「彼女の演奏曲目は『曾根崎心中』です。」
蒼井華和は108番。
最後の出場者だった。
この時点で審査員たちはみな少し疲れた表情を見せていた。
特に先ほどの素晴らしい演奏を聴いた後だけに。
最後に登場するこの選手が、蒼井真緒の半分でも達していれば南無阿弥陀仏だ。
誰もが天才というわけではない。
誰もが音楽の才能を持っているわけでもない。
特に、この参加者が選んだのは『曾根崎心中』だ。
バイオリンで『曾根崎心中』を演奏する?
本気なのか?
自分の名前を呼ばれ、蒼井華和は橘忻乃と結城詩瑶に挨拶した。「私、ステージに行ってくるわ」
「行ってらっしゃい!」橘忻乃と結城詩瑶は蒼井華和にハートマークを作って見せた。「華和、頑張って!」
「頑張るわ」
蒼井華和は振り返って微笑み、左手を上げて、二人にもハートマークを作って見せた。
その笑顔に、二人はちょっと呆然として、その魅力に引き込まれそうになった。
あまりにも綺麗すぎる!
まるで妖艶な美しさだ。
蒼井華和はゆっくりとステージに上がり、表情は穏やかで、緊張している様子は全くなかった。
古めかしい制服を着ていても、人々の目を引いた。
制服をこんなに似合う人は珍しい。
彼女が初めてだ。
「みなさん、こんにちは。蒼井華和です」
とてもシンプルな自己紹介。
たった七文字。
彼女自身のように、清潔で簡潔だった。
「華和、頑張って!」
「蒼井美人、頑張って!」
北橋高校の生徒たちは非常に興奮していた。
応援団となって、声援を送り始めた。
応援団の声は大きかったが、それでも不快な声を完全に消すことはできなかった。
「五線譜も読めないくせに、よくもステージに立てるわね!恥知らず!」