この言葉を聞いて、蒼井華和は淡く微笑み、頬にえくぼができた。
「いいわ」
たった一言。
橘忻乃はほっと息をついた。
彼女は蒼井華和が「いいわ」と言うのが一番好きだった。
彼女が「いいわ」と言うのを聞くと、どんな困難も、どんなプレッシャーも乗り越えられる気がした。
やはりタピオカミルクティーの魅力は大きい。
そのとき、空気の中に司会者の声が響いた。
「次は、108番の選手にステージをお願いします。本日最後の出場者で、北橋高校3年5組の蒼井華和さんです。」
「彼女の演奏曲目は『曾根崎心中』です。」
蒼井華和は108番。
最後の出場者だった。
この時点で審査員たちはみな少し疲れた表情を見せていた。
特に先ほどの素晴らしい演奏を聴いた後だけに。
最後に登場するこの選手が、蒼井真緒の半分でも達していれば南無阿弥陀仏だ。