100:河内市へ

葉山雄大は蒼井華和が大嫌いだった。

一つ目の理由は、蒼井華和が蒼井真緒と血縁関係がないからだ。

二つ目の理由は、蒼井華和が虚栄心が強すぎるからだ。養女に過ぎないのに、いつも蒼井真緒と張り合おうとする。

それに、蒼井家が彼女をここまで育ててきたのに、感謝するどころか、今では蒼井家との関係を絶ってしまった。

犬を飼った方がましだったのに!

教師として、葉山雄大は受けてきた教育から、そのような人とは距離を置くべきだと分かっていた。

それを聞いて、原田先生は眉をひそめた。「葉山先生、警察だって証拠が必要なんですよ。私たち教師も同じで、発言や行動には証拠が必要です。根拠もなく人を誹謗中傷してはいけません。カンニングで一位を取れる人なんていますか?」

原田先生は一旦言葉を切り、続けた。「それに、バイオリンコンクールで蒼井真緒が私たちの学校の華に譲ったというなら、国家主席も蒼井真緒が譲ったとでも言うんですか!」

よくもそんなことが言えたものだ。

その言葉を聞いて、葉山雄大は激怒した。「原田先生、それは行き過ぎです!うちのクラスの蒼井真緒には確かに一位を取る実力があったんです。親切心から一位を譲ったのに、感謝もしないなんて!」

この蒼井真緒も。

優しすぎるんだ!

蒼井真緒が一位を譲らなければ、こんなことにはならなかったのに。

バイオリンコンクールの後、葉山雄大は蒼井真緒に尋ねた。なぜ蒼井華和に譲ったのかと。

蒼井真緒はこう答えた。

友情第一、競争は二の次だと。

負けても誇りは失わないと。

原田先生は絶対に誰かに蒼井華和をそのように言わせるわけにはいかなかった。

結局のところ、今の蒼井華和は個人だけでなく、北橋高校全体を代表しているのだから。

「葉山先生、勝負は勝負でしょう?こんな言い方はよくないと思います」原田先生は葉山雄大を見て言った。「負けを認められないから譲ったと言い出す。河内市一の才女がこんな器量なんですか?」

バイオリンコンクールの日、原田先生も見に行った。

蒼井華和の『曾根崎心中』は会場を魅了し、蒼井真緒とは比べものにならなかった。

原田先生は特に何とも思わなかった。蒼井真緒は河内市一の才女とはいえ、何でもできるわけではない。一つの大会で負けることは普通のことだ。