蒼井紫苑は今、複雑な心境だった。
河内市は小さくはないが、それほど大きくもない。結局のところ、四方を島に囲まれた都市に過ぎない。
もしも、もしも蒼井大婆様が蒼井華和に出会ってしまったら、どうしよう?
篠崎澪は蒼井華和を一目見た時から縁を感じていた。もし蒼井大婆様が蒼井華和を見たら、きっと大変なことになるだろう。
結局のところ、彼女自身も蒼井華和の笑顔を見た時、その目元が篠崎澪にそっくりだと感じたのだから。
いけない。
蒼井大婆様を河内市に行かせるわけにはいかない。
蒼井紫苑は蒼井陽翔の方を見て、笑いながら尋ねた。「お兄さん、おばあちゃんが河内市に行く他の用事があるの?」
それを聞いて、蒼井陽翔は軽くうなずいた。「ああ、従兄が彼女を見つけたらしい。」
蒼井大婆様は年を取っており、唯一の孫娘を見つけることの他に、孫たちがそれぞれ家庭を持つのを見たいという願いがあった。
今やっと孫の一人が彼女を見つけたので、蒼井大婆様は当然自分の目で確かめたいと思っている。
「そうだったんだ。」蒼井紫苑はうなずき、続けて尋ねた。「じゃあ、おばあちゃんはいつ出発する予定?」
「たぶん明日の朝だろう。」蒼井陽翔は答えた。
「そう。」蒼井紫苑は少し残念そうに言った。「私に休みがあれば、おばあちゃんと一緒に行けたのに。」
そう言いながら、何か思い出したかのように、一瞬暗い表情を見せた。「でも、やっぱりやめておこう...私が行っても、おばあちゃんを不快にさせるだけだから。」
最後の言葉を言う時、蒼井紫苑はとても悲しそうだった。
蒼井陽翔はそれを聞いて胸が痛んだ。
彼にはずっと理解できなかった。なぜ蒼井大婆様はそれほど血縁関係を重視するのか。
蒼井陽翔は蒼井紫苑の頭を撫でた。「紫苑には、お兄さんがいるじゃないか。」
蒼井紫苑は少し笑って、一瞬蒼井陽翔の肩に頭を寄せた後、すぐに離れた。「三兄さん、ありがとう。」
「バカだな。」蒼井陽翔は溺愛に満ちた笑顔を見せた。
まさに彼が大衆の前で演じているキャラクターそのものだった。
妹バカ。
このキャラクターのおかげで、蒼井陽翔は一般ファンも獲得していた。
蒼井紫苑も'国民の妹'というニックネームを得ていた。
だから、蒼井陽翔だけでなく、彼のファンの多くも蒼井紫苑を可愛がっていた。