葉山雄大は「おばあちゃんと叔父さんに挨拶してきます」と言った。
「うん」蒼井智輝は頷いた。
二人は応接間の方へ向かった。
葉山雄大はまず蒼井大婆様に挨拶をした。
蒼井大婆様は蒼井智輝に運転に気をつけるように言っただけで、それ以外は何も言わなかった。
それに葉山雄大は眉をひそめた。
普通なら、蒼井大婆様が食事に誘わないとしても、また遊びに来てねと一言言うはずだ。
しかし蒼井大婆様は何も言わなかった。
もしかして......
蒼井大婆様は自分のことが嫌いなのだろうか?
しかし葉山雄大には、蒼井大婆様が自分を嫌う理由が見当たらなかった。
思い返してみる。
今日、自分は何も不適切なことはしていない。
蒼井炎真は形式的な言葉を交わしただけだった。
その言葉からは、不満も満足も読み取れなかった。
蒼井家を出た後、葉山雄大は蒼井智輝に向かって「おばあちゃん、私のこと嫌いなの?」と聞いた。
蒼井智輝は「うちのおばあちゃんは普通のおばあちゃんとは違うから、それは予想の範囲内だよ」と答えた。
「どう違うの?」と葉山雄大は尋ねた。
蒼井智輝はエンジンをかけながら「うちのおばあちゃんは花姓で、ムーランというあだ名があるんだ」と言った。
ムーラン?
葉山雄大は目を細めて「おばあちゃんはすごく強い人なの?」と聞いた。
「戦場を経験して、文字通り死体の山を越えてきた人だ」と蒼井智輝は答えた。
その言葉を聞いて、葉山雄大は少し驚いた。
初対面の時、蒼井大婆様はとても慈愛に満ちていて、親しみやすく、穏やかな老人に見えた。
まさか戦場を経験していたとは思いもよらなかった。
言葉が落ちると、蒼井智輝は続けて「だから私たちの大家族は皆、おばあちゃんを深く敬っているんだ」と言った。
葉山雄大は「おばあちゃんは確かに皆から敬われるべき方ですね!」と言った。
しかし、これらのことと蒼井大婆様が自分を認めていないことにどんな関係があるのか、まだ理解できなかった。
葉山雄大は続けて「今日、私が何かおばあちゃんの機嫌を損ねることをしたのかな?」と尋ねた。
「どうしてそう思うの?」と蒼井智輝は聞いた。
「そうでなければ、おばあちゃんが私のことを嫌いなはずがないでしょう?」と葉山雄大は言った。