彼には家族がいる。賭けるわけにはいかなかった。
我慢するしかない。
チャンスはまだまだある。
今回の試合は10万円の賞金だけだ。10万円のために命を賭ける必要はない。
「浩二、頑張れ!」
野田浩二は最初のカーブを順調に通過した。
彼にはわかっていた。できると。
カーブは想像していたほど難しくなかった。
おそらく。
もっと早く挑戦すべきだった。
会場は歓声に包まれた。
蒼井華和はバックミラーに映る追いついてきた野田浩二を見ても動揺せず、口角を上げながら加速を続けた。
野田浩二も加速を続けた。
その時。
また急カーブが現れ、野田浩二はハンドルを切ろうとしたが間に合わなかった。彼の手の動きがバイクのスピードについていけなかった。
バイクが速すぎた。速度を事前に計算してからカーブを曲がる必要があった。
ドン!
野田浩二のバイクはカーブを外れ、ガードレールに激突した。
煙が立ち込めた。
野田浩二は瞬時に意識を失った。
救助隊がすぐに担架を持って救助活動を開始した。
観客席の誰もがこんな展開になるとは思っていなかった。
野田浩二がUターンカーブを無事に通過した後、彼らの心理は野田浩二と同じだった。
カーブは想像していたほど怖くないと。
しかしこの瞬間。
現実は彼らに重い一撃を与えた。
「浩二は大丈夫か?」
「あのスピードじゃ、運良く生き残っても一生不自由な体になるだろうな!」
野田浩二の失敗は、多くの人々のカーブでの追い越しの考えを打ち消した。
蒼井華和のスピードは加速し続けていた。
キーッ!
急ブレーキの音が鳴り響いた。
36号のバイクはゴールラインに安定して停止した。
実況はこの時すでに興奮で言葉が不明瞭になっていた。「おお!なんということだ!10番選手は本当にかっこいい!まさに間違いなくダークホースだ!」
「10番選手の優勝、おめでとうございます!」
続いて、会場中から拍手が沸き起こった。
蒼井華和は慌てることなくバイクを降り、足が地面に着くや否や、習慣的にヘルメットを取ろうと手を上げかけたが、途中で何かを思い出したように、その動作を止めた。
その後、待機室へと歩き出した。
10分後、2台目のバイクが到着した。
2位は火華の戯だった。
3位は狼夜。