110:蒼井真緒は呆然とした

はい。

会場には八万人の観客がいた。

しかし、蒼井華和が勝つと賭けた人はたった八百人だった。

誰も10番の選手が勝つとは思っていなかった。

細身の女の子に見えた選手が。

主催者側も呆然としていた。

誰も、今日ダークホースが現れるとは思っていなかった。

主催者側は大儲けして、当然とても喜んでいた。

若松峰也は隣の男を見て、尋ねた。「三兄、どうして10番が必ず勝つと分かったんですか?」

「直感だ」如月廷真は答えた。

「直感ですか?」若松峰也は疑問に思った。

男は軽く頷いた。

若松峰也は頭を掻きながら、大きな目に疑問を浮かべた。

なぜ自分にはこんな直感がないのだろう?

待合室。

部屋の中は少し暗かった。

朝比奈瑠璃は椅子に座っていた。

そのとき、外から足音が聞こえ、そして扉が開く音がした。

ギィー

扉が開いた。

大量の陽光が外から差し込み、朝比奈瑠璃の体に降り注ぎ、部屋の暗さを払いのけた。

朝比奈瑠璃は顔を上げた。

蒼井華和はちょうどヘルメットを脱ぎ、左手で耳元の髪をかき上げ、白く豊かな額を見せた。

彼女は逆光に立っていた。

正義を踏みしめてやってきた使者のように。

朝比奈瑠璃はそんな彼女を見つめていた。

少し呆然として。

そしてこの時、彼女は気づいた。

実は、彼女たちは静かに変化していたのだと。

特に蒼井華和は。

彼女の変化があまりにも大きかった。

「華和」

蒼井華和はヘルメットをテーブルに置き、「怪我の具合はどう?」と尋ねた。

「大丈夫」朝比奈瑠璃は首を振った。

「立てる?」蒼井華和は続けて尋ねた。

朝比奈瑠璃は立とうとした。

しかし立ち上がるや否や、ふくらはぎに激痛が走り、眉をひそめて、また座り込んでしまった。

蒼井華和は地面に屈み、朝比奈瑠璃の怪我を確認した。

「関節が少しずれているけど、大したことないわ。元に戻してあげる。少し痛いかもしれないから、我慢してね」

「うん」朝比奈瑠璃は頷いた。

蒼井華和はまず朝比奈瑠璃の足を優しく握り、そして力を入れた。

バキッ。

とても鮮明な音が。

その瞬間、関節の痛みは最高潮に達した。

でも、それはほんの一瞬だけだった。

「立ってみて」蒼井華和は続けて言った。

朝比奈瑠璃は立ち上がり、喜びいっぱいの表情で「本当に痛くなくなった!」