はい。
会場には八万人の観客がいた。
しかし、蒼井華和が勝つと賭けた人はたった八百人だった。
誰も10番の選手が勝つとは思っていなかった。
細身の女の子に見えた選手が。
主催者側も呆然としていた。
誰も、今日ダークホースが現れるとは思っていなかった。
主催者側は大儲けして、当然とても喜んでいた。
若松峰也は隣の男を見て、尋ねた。「三兄、どうして10番が必ず勝つと分かったんですか?」
「直感だ」如月廷真は答えた。
「直感ですか?」若松峰也は疑問に思った。
男は軽く頷いた。
若松峰也は頭を掻きながら、大きな目に疑問を浮かべた。
なぜ自分にはこんな直感がないのだろう?
待合室。
部屋の中は少し暗かった。
朝比奈瑠璃は椅子に座っていた。
そのとき、外から足音が聞こえ、そして扉が開く音がした。
ギィー
扉が開いた。
大量の陽光が外から差し込み、朝比奈瑠璃の体に降り注ぎ、部屋の暗さを払いのけた。
朝比奈瑠璃は顔を上げた。
蒼井華和はちょうどヘルメットを脱ぎ、左手で耳元の髪をかき上げ、白く豊かな額を見せた。
彼女は逆光に立っていた。
正義を踏みしめてやってきた使者のように。
朝比奈瑠璃はそんな彼女を見つめていた。
少し呆然として。
そしてこの時、彼女は気づいた。
実は、彼女たちは静かに変化していたのだと。
特に蒼井華和は。
彼女の変化があまりにも大きかった。
「華和」
蒼井華和はヘルメットをテーブルに置き、「怪我の具合はどう?」と尋ねた。
「大丈夫」朝比奈瑠璃は首を振った。
「立てる?」蒼井華和は続けて尋ねた。
朝比奈瑠璃は立とうとした。
しかし立ち上がるや否や、ふくらはぎに激痛が走り、眉をひそめて、また座り込んでしまった。
蒼井華和は地面に屈み、朝比奈瑠璃の怪我を確認した。
「関節が少しずれているけど、大したことないわ。元に戻してあげる。少し痛いかもしれないから、我慢してね」
「うん」朝比奈瑠璃は頷いた。
蒼井華和はまず朝比奈瑠璃の足を優しく握り、そして力を入れた。
バキッ。
とても鮮明な音が。
その瞬間、関節の痛みは最高潮に達した。
でも、それはほんの一瞬だけだった。
「立ってみて」蒼井華和は続けて言った。
朝比奈瑠璃は立ち上がり、喜びいっぱいの表情で「本当に痛くなくなった!」