110:蒼井真緒が呆気にとられた_2

「華和、私は要らないわ」朝比奈瑠璃は即座に断った。

「10万元の賞金で十分よ!」朝比奈瑠璃はカードを蒼井華和の手に押し戻した。「もともと、この10万元の賞金を手に入れたら、安心して勉強に専念するつもりだったの」

朝比奈瑠璃は順調に大会に参加できると思っていたが、人生でこんなに多くの予期せぬことが起こるとは思わなかった。

しかし、たとえ陥れられていなくても、おそらく優勝することはできなかっただろう。

結局のところ、対戦相手が強すぎたのだ!

特に野田浩二は。

「本当?」蒼井華和は眉を少し上げた。

朝比奈瑠璃は真剣に頷いた。「本当よ、誓えるわ。華和、安心して。これからもし何かあったら、必ず真っ先にあなたに話すから」

「わかったわ」蒼井華和はようやくキャッシュカードを引っ込めた。

観客席。

レースは終わったものの、観客たちはまだ余韻に浸っていた。みんなさっきまでのレースの興奮が冷めやらない。

あの興奮と緊張感は、実際に経験していない人には共感できないものだった。

だから、レースが終わって10分経っても、みんなまだ席を立とうとしなかった。

默默は春野康雅を見つめて言った。「パパ、10番のお姉さんのサインがほしいな。これからは彼女が私のアイドルよ!」

默默はバイクレースのことはよく分からなかったが、あの熱い雰囲気は心に深く刻まれた。

そして、この10番のお姉さんが実力で証明してくれた。この世のすべてのものは平等で、男女も平等だということを。

これからこういうレースがあっても、きっと女性を最初から否定することはないだろう。

「それは難しいかもしれないな」春野康雅は首を振った。

バイクレースの参加者は決して素顔や本名を明かさない。人々はレース場で彼らを見ることはできても、レース場を離れれば、たとえ目の前にいても分からないのだ。

「どうして?」默默は落胆して尋ねた。

春野康雅は説明した。「10番のお姉さんは特別な立場にいるからね。もし正体がばれたら、危険なことになるかもしれない」

默默は頷いて、さらに尋ねた。「じゃあ、10番のお姉さんの名前は何?」

春野康雅は一瞬固まった。

本当に思い出せなかったのだ。

そのとき、春野遥澄が静かに口を開いた。「幽霊だ」