105:静園さんの心の中の人_5

電話を切ると、蒼井真緒は笑顔を引っ込め、目の奥に微かな光が走った。

心理学を学んだ人なら誰でも知っている。

簡単に手に入れたものは、大切にされにくいということを。

だから、彼女はそう簡単に契約を承諾するわけにはいかなかった。

蒼井真緒が目を細めた瞬間、見覚えのある人影が目に入った。

須藤大婆様だった。

須藤大婆様は須藤悠翔の祖母だ。

蒼井真緒は存在感をアピールする機会を逃すはずもなく、すぐに笑顔で近づいていった。「須藤お婆ちゃん。」

須藤大婆様は顔を上げて見ると、眉をひそめて言った。「私たち、そんなに親しかったかしら?」

年を取ると記憶力が衰えてくるものだ。

蒼井真緒は河内市の才女として、老婦人とそんなことで争うつもりはなかった。

蒼井真緒は優しい笑顔を浮かべて、「須藤お婆ちゃん、私は蒼井真緒です。須藤兄貴とは親しい友人なんです。」