電話を切ると、蒼井真緒は笑顔を引っ込め、目の奥に微かな光が走った。
心理学を学んだ人なら誰でも知っている。
簡単に手に入れたものは、大切にされにくいということを。
だから、彼女はそう簡単に契約を承諾するわけにはいかなかった。
蒼井真緒が目を細めた瞬間、見覚えのある人影が目に入った。
須藤大婆様だった。
須藤大婆様は須藤悠翔の祖母だ。
蒼井真緒は存在感をアピールする機会を逃すはずもなく、すぐに笑顔で近づいていった。「須藤お婆ちゃん。」
須藤大婆様は顔を上げて見ると、眉をひそめて言った。「私たち、そんなに親しかったかしら?」
年を取ると記憶力が衰えてくるものだ。
蒼井真緒は河内市の才女として、老婦人とそんなことで争うつもりはなかった。
蒼井真緒は優しい笑顔を浮かべて、「須藤お婆ちゃん、私は蒼井真緒です。須藤兄貴とは親しい友人なんです。」