「将棋を見守っている」と春野康雅は答えた。
春野遥澄は眉を少し上げ、「6番だ」と言った。
「うん」
春野康雅は群衆の中から6番の姿を見つけた。
現在、6番は上位5位に入っている。
「まあまあだな、爆発力はありそうだ」と言いかけて、春野遥澄は一瞬止まり、続けて「でも、10番の爆発力も悪くないと思う」と言った。
「10番?」春野康雅は笑い出し、コース上の大画面を指差して言った。「最後尾を走っているあの車のことか?」
「ああ」春野遥澄は軽く頷いた。
春野康雅はさらに大きく笑った。
「爆発力どころか、前の急斜面さえ上れるかどうか怪しいぞ」
バイクレースで急斜面は最も難易度の低い部分だ。
ただし、それは経験豊富なレーサーに限る。
春野遥澄は何も言わなかった。
ただ大画面を見つめていた。
彼女はゆっくりと他の選手たちの後ろを走っていた。