野良猫でも野良犬でも恥を知っているのに、如月廷真は知らないのか?
如月廷真が恥を知っているなら、こんなにしつこく付きまとうはずがない。
こんな男に付きまとわれて、蒼井真緒は本当に嫌な気分だった。
彼女には理解できなかった。なぜこんな人間が存在するのか。
しかも、彼は自分の元婚約者だった。
本当に気持ち悪い。
ルーシーは如月廷真を知らなかったので、笑顔を作って「蒼井さん、申し訳ございません。お気分を害してしまって。上司に報告させていただきます」と言った。
蒼井真緒はUKの河内市イメージアンバサダーだった。
彼女には河内市一の才女という称号があったからだ。
各SNSでファンベースがあった。
ルーシーはただのアシスタントで、蒼井真緒を怒らせるわけにはいかなかった。
蒼井真緒は如月廷真を横目で見て、そそくさと立ち去った。
まるで彼を見るだけでも吐き気を催すかのようだった。
如月廷真は表情を変えずに外へ向かった。まるさっきの出来事など何もなかったかのように。
しばらくして、彼は携帯を取り出し、電話をかけた。
「アダムに繋いでくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
すぐに電話が繋がった。
電話の向こうから敬意を込めた声が聞こえた。少しなまりがあった。「社長」
「蒼井真緒はどういうことだ?」
蒼井真緒?
アダムは一瞬戸惑い、それから思い出して答えた。「蒼井さんは今年新しく契約した河内市のイメージアンバサダーです」
イメージアンバサダー?
蒼井真緒?
如月廷真は眉をひそめ、薄い唇を開いた。「分かった」
言い終わると電話を切った。
アダムは切れた電話を見つめ、少し呆然としていた。
静園さんの意図が分からなかった。
しばらくして、アダムは我に返り、すぐに携帯をしまい、外へ向かった。
社長に何十年も仕えてきたが、社長が自ら女性について尋ねるのは初めてだった。
蒼井真緒が最初の一人だった。
もしかしたら...社長は蒼井真緒の追っかけなのかもしれない?
蒼井真緒は名が知れ渡っており、多くの追っかけがいる。社長が彼女に憧れるのも当然だ。
結局のところ、才徳兼備の美人を好まない男がいるだろうか?
そう考えると、アダムの心が震えた。
もしそうだとしたら、蒼井真緒を軽んじるわけにはいかない。