105:静園さんの心の中の人

野良猫でも野良犬でも恥を知っているのに、如月廷真は知らないのか?

如月廷真が恥を知っているなら、こんなにしつこく付きまとうはずがない。

こんな男に付きまとわれて、蒼井真緒は本当に嫌な気分だった。

彼女には理解できなかった。なぜこんな人間が存在するのか。

しかも、彼は自分の元婚約者だった。

本当に気持ち悪い。

ルーシーは如月廷真を知らなかったので、笑顔を作って「蒼井さん、申し訳ございません。お気分を害してしまって。上司に報告させていただきます」と言った。

蒼井真緒はUKの河内市イメージアンバサダーだった。

彼女には河内市一の才女という称号があったからだ。

各SNSでファンベースがあった。

ルーシーはただのアシスタントで、蒼井真緒を怒らせるわけにはいかなかった。

蒼井真緒は如月廷真を横目で見て、そそくさと立ち去った。

まるで彼を見るだけでも吐き気を催すかのようだった。

如月廷真は表情を変えずに外へ向かった。まるさっきの出来事など何もなかったかのように。

しばらくして、彼は携帯を取り出し、電話をかけた。

「アダムに繋いでくれ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

すぐに電話が繋がった。

電話の向こうから敬意を込めた声が聞こえた。少しなまりがあった。「社長」

「蒼井真緒はどういうことだ?」

蒼井真緒?

アダムは一瞬戸惑い、それから思い出して答えた。「蒼井さんは今年新しく契約した河内市のイメージアンバサダーです」

イメージアンバサダー?

蒼井真緒?

如月廷真は眉をひそめ、薄い唇を開いた。「分かった」

言い終わると電話を切った。

アダムは切れた電話を見つめ、少し呆然としていた。

静園さんの意図が分からなかった。

しばらくして、アダムは我に返り、すぐに携帯をしまい、外へ向かった。

社長に何十年も仕えてきたが、社長が自ら女性について尋ねるのは初めてだった。

蒼井真緒が最初の一人だった。

もしかしたら...社長は蒼井真緒の追っかけなのかもしれない?

蒼井真緒は名が知れ渡っており、多くの追っかけがいる。社長が彼女に憧れるのも当然だ。

結局のところ、才徳兼備の美人を好まない男がいるだろうか?

そう考えると、アダムの心が震えた。

もしそうだとしたら、蒼井真緒を軽んじるわけにはいかない。