106:ただ者ではない_2

子供を失くしたという気持ちは分かります。

かつての彼女のように。

交通事故で夫と息子、そして息子の嫁を失いました。

もし乳飲み子の孫がいなかったら、彼女も生きていけなかったでしょう。

人は精神的支柱と希望がないのが一番怖いのです。

蒼井大婆様はため息をつき、「あなたの言うことは分かるけど、事情はそう単純じゃないの……」

蒼井紅音の立場から考えると、もし彼女が見つかって、家に自分と同じくらいの年の姉がいて、しかも自分が失踪したすぐ後に両親が新しい娘を養子に迎えていたとしたら。

蒼井紅音はどう思うでしょうか?

それに、蒼井紫苑は扱いやすい相手ではありません。

「稲川みのり、何事もポジティブに考えなさい」須藤大婆様は慰めるように言いました。「今のあなたに一番大切なのは、毎日楽しく過ごして、体調を整えて、子供を見つけ出し、彼女の大学卒業式や結婚式、そして曾孫のお食い初めに参加することよ」