如月廷真の直筆のサイン。
如月大爺様が亡くなれば、すぐに効力を発し、そのとき、如月志弘一家は何も相続できないどころか、長年苦労して築いた蘭木工房まで失うことになる。
だから、この時点で早坂明慧と揉め合う必要はなく、ただ静かに死亡通知を待つだけでよかった。
さらに一時間が経過。
手術室のライトがそのまま点いている。
外で待つ人々は、不安な表情を浮かべていた。
しかし、如月大爺様の容態を本当に心配しているのは如月志弘と早坂明慧だけだった。
他の人々は……
気にかけているのは危篤通知書だけだった。
結局のところ、如月大爺様が息を引き取れば、堂々と遺産分割ができるのだから。
ギィッ!
その時、空気を切り裂くようなドアの開く音が響いた。
その瞬間、全員が手術室の中を覗き込んだ。
緊張と期待が入り混じっていた。
次の瞬間。
青い手術着を着た医師たちが中から出てきた。
蒼井華和を先頭に。
考えるまでもなく、手術は失敗したのだろう。
如月大爺様は手術台の上で亡くなったに違いない。
白川雪乃と如月佳織は目を合わせ、そして息を合わせたように蒼井華和の方へ駆け寄った。「この藪医者!父の命を返せ!」
「お父様!」
泣き声と怒号が一斉に響き渡った。
如月佳織は手を上げ、蒼井華和の顔に向かって平手打ちを繰り出した。
蒼井華和が手を上げようとした瞬間、骨ばった手が彼女の前に立ちはだかり、如月佳織の手首をしっかりと掴んだ。
そして、低い声が響いた。
「祖父の手術は非常に順調で、もう危険は脱しました」
淡々とした一言。
しかし、群衆の中に大きな波紋を広げた。
これは!
こんなことがあり得るのか!
蒼井華和がどうして手術を成功させられたのか?
その間に何が起こったのか?
何か間違いがあったのではないか?
特に如月佳織と白川雪乃は。
完全に呆然としていた。
「何て言った?」如月佳織は如月廷真を見上げた。
如月廷真は如月佳織の手首を放し、ポケットからティッシュを取り出して手を拭った。「叔母さんは、祖父の回復を望んでいないのですか?」
如月佳織はすぐに反論した。「私がどうして祖父様の回復を望まないことがあるでしょう!私が言いたいのは、あなたは私を騙してないでしょうね?」
あの田舎者に本当に病気を治す能力があるの?