実は蒼井家が真緒を差し替えようとしていることを、如月家の親戚たちは早くから気づいていた。
如月志弘と早坂明慧の夫婦だけが現実が見えず、蒼井真緒が如月廷真と結婚すると本当に信じていた。
まったくの夢物語だ!
考えれば分かることだ。蒼井真緒がダメ人間に目もくれるはずがない。
だから、婚約パーティーの当日、如月大爺様以外は、如月志邦も妹の如月佳織も出席しなかった。
案の定、蒼井家は手のひらを返したように、河内市一の才女を田舎娘とすり替えてきた。
如月佳織の疑問に対して、早坂明慧も理解できた。
結局、以前の彼女も如月佳織と同じように、蒼井華和に対して誤解を重ね、華和からもらった美容丸さえ捨ててしまった。
だから、この話を聞いた時、早坂明慧が最初に思ったのは怒ることではなく、如月佳織に説明することだった。
「佳織さん、誤解よ。これは怪しい薬なんかじゃないわ」
「怪しくないって何よ?」如月佳織は腕を組んで、早坂明慧を見つめた。「お父様を殺そうとしているんでしょう!」
如月大爺様は如月家の当主だ。
現状では、如月大爺様に何かあれば、利益を得るのは間違いなく如月志弘と早坂明慧だ。
毒薬で大爺様を害そうだって?
とんでもない。
白川雪乃は笑いながら言った。「私たちは皆家族なんだから、話し合えばいいじゃない。佳織さん、あなたは少し急ぎすぎよ。お義姉さんだって良かれと思ってのことでしょう」
どんなことでも、利益が絡むと複雑になるものだ。
たとえ血のつながった親族でも。
白川雪乃はずっと如月大爺様が偏愛的だと感じていた。良いものは全て長男家に与えられていた。
大爺様が帝都にいたこの数年間、彼女と夫が側で孝行を尽くしてきた。
ようやく大爺様が終わりに近づいているのに、彼女は何も得られていない。当然、納得できるはずがない。
大爺様は死んでもいい!
でも家産はきちんと分けなければならない。
絶対に大爺様をあいまいなまま逝かせるわけにはいかない。
「良かれと思って?人の心なんて分からないものよ。彼女の本当の目的なんて誰に分かるの!」如月佳織は容赦なく言い放った。
早坂明慧は続けて説明した。「佳織さん、お義姉さん、私を信じてください。あの薬は決して怪しいものじゃありません。鎮静丸なんです。ネットで調べることもできますよ」