林凛夜は笑いながら言った。「ただの仮定だよ。そうだ、時雨越兄、あの美人のこと知ってるの?」
「知らない」須藤悠翔はきっぱりと否定した。
林凛夜は続けた。「なんか、あの美人に対して敵意を感じているような気がするんだけど?」
「気のせいだ」須藤悠翔は言った。
林凛夜は目を細め、突然悟ったような表情を浮かべた。「ああ、わかったぞ。もしかして、あの美人に傷つけられたことがあるの?」
「ますます的外れだな!」須藤悠翔は眉をひそめた。「今日ここに来た目的を忘れたのか?」
「覚えてたって何の意味があるんだ?相手がここにいるってことしか分からないじゃないか」林凛夜は呆れて言った。「これじゃ大海の針探しと変わらないよ」
蒼井華和と蒼井大婆様は展望台に写真を撮りに行った。
その時、彼女は何かを思い出したように、蒼井大婆様の側に寄って、「蒼井婆ちゃん、ちょっと待っていてください。ゴミを捨ててきます」と言った。
「ええ、いいよ」蒼井大婆様はうなずいた。
蒼井華和はゴミ箱の側に行き、ゴミを投げ入れた。
そして、展望台に戻り、蒼井大婆様の写真撮影を続けた。
蒼井大婆様は年は取っているが心は若く、次々とポーズを変えていた。
蒼井華和も嫌な顔一つせず、むしろ蒼井大婆様に撮影のポーズをアドバイスしていた。
しばらくして、蒼井大婆様が言った。「華和、私たち二人で一緒に写真を撮りましょう」
「いいですよ」蒼井華和は軽くうなずいた。
蒼井大婆様は笑いながら言った。「私の携帯を使って、誰かに撮ってもらいましょう」
「はい」
蒼井大婆様は携帯をカメラモードにして、若い男性の側に行き、「お若い方、私たちの写真を撮っていただけませんか?」と声をかけた。
林凛夜は、まさか美人の隣にいたおばあさんに声をかけられるとは思ってもみなかった。
一瞬、驚きと興奮が入り混じった。
蒼井大婆様が近づいてくるのを見て、須藤悠翔は眉をひそめ、すぐに背を向けた。
蒼井華和はますます常軌を逸していた。
まさか年配者に声をかけさせるなんて。
それなのに、林凛夜というお人好しは、自分に何か良いことが起こったと思い込んでいた。
林凛夜は携帯を手に取り、「おばあさん、お孫さんの近くに寄ってください。そうそう、その通りです」と言った。
蒼井大婆様の携帯には美顔機能がついていなかった。