もしも。
もしも、彼女が自分の孫娘だったら、どんなに素晴らしいだろう。
楽しい日々はいつも短い。
すぐに週末がやってきた。
蒼井華和は市内に戻らなければならない。月曜日にはまた授業があるからだ。
蒼井大婆様も帝都に戻る準備をしていた。
蒼井華和がこちらに親戚があまりいないことを知り、蒼井大婆様は言った。「華和、冬休みは帝都に来なさい。お正月は蒼井婆ちゃんの家で過ごしましょう。うちは人も多いし、お正月はもっと賑やかだから」
「ありがとうございます。でも冬休みは他の用事がありますので、時間ができたら帝都に伺います」
「そう」蒼井大婆様は頷いた。「じゃあ、そう決まりね」
「はい」
蒼井大婆様は続けて「来週から冬休みでしょう?」
蒼井華和は軽く頷いて「あと五日授業があります」
「もうすぐね」
冬休みになれば、お正月も近い。
蒼井華和は蒼井大婆様を空港まで見送り、それから帰った。
帰り道の気持ちは寂しかった。
蒼井大婆様はファーストクラスの座席に座り、心が乱れていた。
まるで何か大切なものを河内市に置き忘れてきたような感覚だった。
彼女はずっと蒼井華和が蒼井紅音なのではないかと思っていた。
でも蒼井華和の腕には母斑がなかった。
この数日間の蒼井華和との付き合いで、彼女はますます蒼井華和を実の孫娘のように思うようになっていた。
飛行機を降りても、蒼井大婆様はまだ上の空で、出迎えに来ていた篠崎澪にも気付かなかった。
ようやく、篠崎澪が前に出て「お母様!」と呼びかけた。
蒼井大婆様はやっと我に返り、「来てたの」
「はい」篠崎澪は頷いた。
蒼井紫苑も一緒に来ていないのを見て、蒼井大婆様の機嫌は悪くなかった。続けて「今日帰ってくるって、どうして分かったの?」
「今日は月曜日で、華和は学校があるから、お母様は今日きっと戻ってくると思いました」
蒼井大婆様は頷いた。
「でも私が推測したわけではありません」篠崎澪は続けて言った。
「じゃあ誰?」蒼井大婆様は尋ねた。
篠崎澪は微笑んで、視線を別の方向に向けた。
蒼井大婆様も興味深そうに顔を上げ、そちらを見ると、目の中の笑みが徐々に消えていった。
「お祖母様」蒼井紫苑は花束を抱えて、遠くから歩いてきた。