蒼井陽翔は話しながら、まんたんに毛糸を差し出した。
まんたんは小さな前足を上げ、蒼井陽翔の手に向かってパッと一撃を加えた。
蒼井陽翔はすぐに手を引っ込めた。
しかし、手には爪跡が残っていた。
とても痛かった。
でも我慢できた。
蒼井陽翔は小さな缶詰を取り出し、「まんたん、缶詰を食べない?これは特別に人に頼んで海外で買ってもらったんだ。評判がいいらしいよ。食べてみない?」
缶詰の香りが鼻孔に染み込んできて、逃れようがなかった。
まんたんは舌なめずりをして、最後には一歩前に進み、ゆっくりと食べ始めた。
食べたくなかったのに!
でも敵の缶詰があまりにも美味しそうだった!
蒼井華和はダイエットのために、もう何日も缶詰を与えていなかった。ここは帝都だし、如月廷真というお人好しに缶詰をもらえる場所も見つからない。
まんたんはガツガツと食べ、あっという間に缶詰を平らげた。
小さな子が美味しそうに食べる様子を見て、蒼井陽翔も口角が緩んだ。
実は猫という生き物も、結構可愛いものだな!
蒼井陽翔は我慢できずにまんたんを撫でた。
その瞬間、まんたんは口を開けて彼の手に噛みついた。
やっぱり腹が立つ!
この仇は必ず返さねば子猫じゃない!
まんたんは噛んだ後すぐに逃げ出した。
蒼井陽翔が気づいた時には、もう姿が見えなくなっていた。
小さな奴は結構根に持つんだな!
蒼井陽翔は手の噛み傷を見て、全く怒る気にならず、むしろ心が軽くなった気がした。
背中に背負っていた何かの重荷が、一気に消えたような気がした。
蒼井陽翔は笑いながら上階に戻り、消毒液で傷口を消毒し、その後車で病院へ向かった。
猫も狂犬病ウイルスを持っている可能性がある。
だから、ワクチンを打ちに行かなければならない。
蒼井紫苑はSNSをスクロールしながら、蒼井大婆様のフォロワーが増えていくのを見て、心中穏やかではなかった。
蒼井華和に自分の風采を奪われるのは許せない。
そのとき、蒼井紫苑のLINEにメッセージが届いた。
蒼井真緒からだった。
【蒼井さん、こんばんは。】
このメッセージを見て、蒼井紫苑は軽く口角を上げた。そうだ。
蒼井真緒のことを忘れていた。
諺にもあるように、君子の敵を百人作るより、小人の敵を一人作る方が怖い。