その言葉を聞いて、早坂明慧は黙っていた。
彼女は自分のことが分からない人間ではなかった。
以前、蒼井華和がまだ蒼井家の養女だった頃でさえ、如月廷真と付き合うのは身分不相応だったのに、まして今や蒼井華和は蒼井家のお嬢様なのだ。
蒼井家とはどんな家か?
帝都随一の名家である。
帝都サークル全体が取り入ろうとする家柄だ。
蒼井家には三男二女がいる。
長男の蒼井琥翔は実業家で、ビジネス界では恐れられる死神として知られ、若くして既に威風堂々たる人物となっている。
次男の蒼井遥真は著名な芸術の巨匠で、若くして名を馳せ、一枚の絵が一億円で落札されるという記録を打ち立てた。
三男は芸能界で絶大な人気を誇る大スター俳優だ。
数々の代表作を持つ。
まさに一世代の青春の象徴だ。
そして末娘の蒼井紫苑。