朝比奈瑠璃は少し呆然としていた。
何のことだろう?
両親が彼女を黒川振一に嫁がせようとしているって?
そんなはずがない!
昨夜も、橘秀実は大学進学のためにお金を貸すと言ってくれたのに。両親は彼女にこんなにも優しいのに、どうして黒川振一に嫁がせようなんて考えるはずがない。
でも、この姉は精神的な問題があるから、そんなことを言うのも当然かもしれない。
精神病の人と道理を語り合うなんてバカげている!
「お姉さん、両親は私に良くしてくれています」朝比奈瑠璃はハンカチに包まれたものを若松美智子に返した。「私のことは心配しないで」
それを聞いて、若松美智子は非常に焦った。
彼女は朝比奈瑠璃に自分のような境遇になってほしくなかった。
かつて。
若松美智子にも夢があった。
大学に合格して、この山から出て、警察官になることが彼女の夢だった。