171:今まで負けたことがないのに、子供に負けてしまった!

朝比奈瑠璃は少し呆然としていた。

何のことだろう?

両親が彼女を黒川振一に嫁がせようとしているって?

そんなはずがない!

昨夜も、橘秀実は大学進学のためにお金を貸すと言ってくれたのに。両親は彼女にこんなにも優しいのに、どうして黒川振一に嫁がせようなんて考えるはずがない。

でも、この姉は精神的な問題があるから、そんなことを言うのも当然かもしれない。

精神病の人と道理を語り合うなんてバカげている!

「お姉さん、両親は私に良くしてくれています」朝比奈瑠璃はハンカチに包まれたものを若松美智子に返した。「私のことは心配しないで」

それを聞いて、若松美智子は非常に焦った。

彼女は朝比奈瑠璃に自分のような境遇になってほしくなかった。

かつて。

若松美智子にも夢があった。

大学に合格して、この山から出て、警察官になることが彼女の夢だった。

しかし。

結局、彼女は雑巾の上の残り米のような存在になってしまった。

「あの人たちはあなたを騙しているのよ」若松美智子は続けた。「まだ気づいていないの?私がなぜ60歳を過ぎた老人と結婚することになったのか?美織がなぜずっと外で出稼ぎしているのか?それは、あの人たちが男尊女卑で、女の子を人間として見ていないからよ!私と美織の後には、まだ三人の妹がいたの。あなたは五番目。三番目と四番目の妹は、あの人たちに裏山で狼の餌にされたのよ!あの人たちの最終目的は男の子を産むことだけ。あの人たちの心の中では、若松七宝だけが実の子供なの!あなたはせっかくこの家から逃げ出せたのに、どうしてまた戻ってきたの?」

「それに美織も、本当に外で華やかな仕事をしていると思っているの?彼女は人に支配されているのよ!彼女は……」

最後まで言い切れず、若松美智子は声を詰まらせ、涙を流した。

自分が経験していなければ、こんな親がいるなんて信じられなかっただろう。

しばらくして、彼女は深く息を吸い、朝比奈瑠璃の手を両手で掴み、包んであったハンカチを再び朝比奈瑠璃の手に押し込んだ。「私の言うことを聞いて、早く逃げて。これは私が何年もかけて貯めた内緒のお金よ。多くはないけど、ここから出ていくには十分なはず。覚えておいて、二度と戻ってこないで!」

言い終わると、若松美智子は急いでその場を離れた。