「好きだからって何でも許されると思ってるの?」
蒼井遥真は今、とても動揺していた。
若松冬音は演技をしているのか……
それとも自分が酔った勢いで暴走したのか?
昨夜の出来事について、何一つ覚えていない。蒼井遥真は深く息を吸い込んで、「冬音、まず落ち着いて。事態は君が想像しているようなものじゃない!」
「じゃあ、どういうことなの?」若松冬音は怒りを込めて言った。「私がどんなに下品な女だとしても、男の布団に自分から潜り込むようなことはしない!」
「冬音、君を下品だなんて言ってない。ただ、この件は不思議だと思うんだ。二人とも落ち着いて、ちゃんと話し合おう?」
若松冬音はシーツをきつく握りしめ、涙を流していた。
蒼井遥真の頭の中も混乱していた。
こんな事態は初めてだった。
どう対処すればいいのかもわからない。
今どうすればいい?
しばらくして、若松冬音は続けた。「これが私の初めてだったの。」
初めて。
その三文字が、蒼井遥真の顔を真っ青にした。
「冬音、俺は……」蒼井遥真は若松冬音を見つめ、何と言えばいいのかわからなかった。
彼は男だ。
こういう事が起きれば、結局は女の子が損をする。
結局のところ。
強姦犯は男性を標的にする。
蒼井遥真は若松冬音の意図がよくわかっていた。
これから彼女は自分に責任を取らせようとするはずだ。
そのとき、若松冬音が続けて言った。「安心して、責任なんて取らせないわ。私、若松冬音は言ったことは必ず守る。これからは、この出来事なんて無かったことにしましょう。」
そう言うと、若松冬音は布団をめくり、床に散らばった服を拾い上げ、一枚一枚着て、部屋を出て行った。
彼女の後ろ姿は決然としていて、未練は微塵も感じられなかった。
まるで、今日からもう本当に蒼井遥真のことを諦めたかのように。
蒼井遥真は若松冬音の後ろ姿を見つめ、表情には言い表せない何かが浮かんでいた。
すぐに、空気の中にドアの閉まる音が響いた。
蒼井遥真は思い切り自分の頬を叩いた。
パン!
この一発は相当強かった。
蒼井遥真の口角から血が滲んだ。
しばらくして。
蒼井遥真はようやくホテルの部屋を出た。
家に帰ると。
篠崎澪が心配そうに尋ねた。「遥真、昨夜はどこにいたの?」