蒼井紫苑は蒼井遥真にお茶を注いだ。
茶色は澄んでいた。
蒼井紫苑のお茶を淹れる腕前が良いことが分かる。
蒼井遥真は湯飲みを手に取り、一口飲んだ。
普段なら、きっと丁寧に味わっていただろう。
しかし今日は。
何を食べても。
すべてが蝋を噛むようだった。
蒼井遥真は湯飲みの中のお茶を一気に飲み干した。
蒼井紫苑は蒼井遥真を見上げて、「お兄さん、何か悩み事?」
「うん」と蒼井遥真は続けて言った。「一つ聞きたいことがある」
「どうぞ」と蒼井紫苑は答えた。
蒼井遥真は尋ねた。「君と若松冬音の仲はどうなの?」
その言葉を聞いて、蒼井紫苑の目に一瞬光が宿った。お茶を淹れ続けながら、「前は仲が良かったけど、彼女のことを聞いてからは、少し距離を置くようになったわ。私は、いい子はワンナイトスタンドなんかするべきじゃないと思うの」
その言葉を聞いて、蒼井遥真の胸が痛んだ。
「実は、若松冬音とワンナイトスタンドをしたのは俺だ」と蒼井遥真は言った。
それを聞いて、蒼井紫苑は目を見開き、そして笑って言った。「お兄さん、冗談でしょう」
「冗談じゃない」蒼井遥真は真剣な眼差しで蒼井紫苑を見つめた。
蒼井紫苑は蒼井遥真を見て、喉を鳴らした。「お兄さん、本当に冗談じゃないの?」
「本当だ」
蒼井紫苑は手で口を覆った。「どうしてこんなことに?お兄さんと彼女が......お兄さん、一体どういうことなの?」
彼女のこの驚いた様子は、知らない人が見たら、この件が蒼井紫苑と全く関係ないと思うほどだった。
今となっては、蒼井遥真は自分の行為に言い訳をする気はなく、続けて言った。「事情は複雑なんだ。君に会いに来たのは、彼女を説得してほしいからだ。子供はもういないけど、それでも責任を取りたい」
「責任?」蒼井紫苑は蒼井遥真を見つめ、少し不確かな様子で尋ねた。「お兄さん、責任を取るってどういう意味?」
「結婚だ」蒼井遥真は一言一言はっきりと言った。
蒼井紫苑は眉をひそめた。「でも、お兄さんは若松冬音のことが好きじゃないでしょう?」
好き?
今の彼に、誰かを好きになる資格があるだろうか?
蒼井遥真は軽くため息をついた。「感情は結婚後にゆっくり育てていけばいい。あんなことをして、一つの命をこの世から消してしまった以上、若松冬音に対して責任を取るべきだ」