静寂が破られた。
みんなが振り向いて彼女を見た。
周防紫月は緊張した様子で「華和兄、大丈夫?」と尋ねた。
蒼井華和の額に細かい汗が浮かんでいた。
まだ動揺が収まらない。
しばらくして、やっと我に返り、周防紫月の方を振り向いて「大丈夫、悪夢を見ただけ」と答えた。
「よかった」
白川さんは客室乗務員の方を見て「お湯をお願いします」と言った。
「かしこまりました」と客室乗務員は頷いた。
すぐにお湯を持ってきて「お客様、お湯でございます」
「蒼井さんに」
「はい」
客室乗務員は蒼井華和の前にお湯を差し出し「お湯でございます」
「ありがとうございます」
蒼井華和はカップを受け取り、一口飲んだ。
熱いお湯が喉を通り、悪夢がもたらした圧迫感が少し和らいだ。
さっきの夢は、あまりにも生々しかった。
周防紫月は続けて「華和兄、何か食べる?」と聞いた。
「お腹すいてないわ」
「そう」周防紫月は客室乗務員に手を振って「パンをください」
「少々お待ちください」
二時間後、飛行機は定刻通りに着陸した。
三人は一緒に歩いていた。
周防紫月は蒼井華和の手からスーツケースを受け取り「華和兄、無料の運び屋さんがいるんだから、任せちゃえばいいのよ。遠慮することないわ」
蒼井華和が断る前に、周防紫月は彼女のスーツケースを白川さんに渡した。
「白川さんにご迷惑をおかけするわけにはいきません。私はペットも預けていますので」と蒼井華和は続けた。
それを聞いて、周防紫月の目が輝いた。「華和兄、ペット飼ってるの!猫?犬?」
「犬よ」と蒼井華和は答えた。
「じゃあ一緒に迎えに行こう!」周防紫月は蒼井華和の腕にしがみついた。「私、犬大好きなの!昔も飼ってたけど、病気で死んじゃって、それから母さんに飼うのを禁止されちゃったの!」
周防紫月が蒼井華和と一緒に犬を迎えに行くなら、白川さんも当然ついて行く。
二人の女性が前を歩き、白川さんが後ろについて行った。
すぐに、犬の受け取り場所に着いた。
しかし、まだ二十分待たなければならなかった。
周防紫月は親しげに「華和兄、どんな犬なの?」と尋ねた。
「品種はよく分からないわ。最近拾った野良犬なの」と蒼井華和は答えた。
周防紫月は蒼井華和が美しくて思いやりのある人だと感じた。