一瞬のことだった。
篠崎澪は呆然とした。
蒼井陽翔も呆然として、蒼井修誠の方を振り返り、目には信じられない表情が浮かんでいた。
おそらく、父親が直接ドアを指差して出て行けと言うとは思っていなかったのだろう。
両親が引き止めてくれると思っていたのに。
「お父さん?」
「出て行くんじゃなかったのか?」蒼井修誠は続けて言った。「出ていけ!」
蒼井陽翔は蒼井修誠を見つめ、目には詰問の色が浮かんでいた。「紫苑を追い出すんですか?」
篠崎澪は説明した。「お父さんと私は、彼女に一時的に外で暮らしてもらうだけよ。間違いを犯したのだから、罰を受けるのは当然でしょう!」
「でも紫苑はまだ意識不明です!」蒼井陽翔は心配そうに言った。「紫苑は体が弱いのに......」
蒼井修誠は蒼井陽翔とこれ以上話す気はなかった。「出て行くなら行け、残るなら残れ。ただし、一度出て行ったら、二度と戻ってくるな!お前のような息子は私にはいない!」
眉間には冗談めかした様子は一切なく、言葉には重みがあった。
言い終わると、蒼井修誠は篠崎澪を見た。「行こう!」
篠崎澪は蒼井修誠の後を追った。
外に出てから、篠崎澪は声を潜めて言った。「これで本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ、放っておけ。」
篠崎澪はため息をついた。「陽翔が紫苑に向ける気持ちの半分でも紅音に向けていれば、二人はこんな状況にはならなかったのに。」
それなのに蒼井陽翔は自分が正しいと思い込んでいる様子だった。
両親を板挟みにして困らせている。
「早く気付いてくれることを願うばかりだ。」
蒼井修誠は何も言わなかった。
篠崎澪もそれ以上何も言わず、二人は自分たちの部屋に戻った。
高城ママは二人の後ろ姿を見つめながら、心の中で焦っていた。
どうしよう?
本当に蒼井紫苑は蒼井家から追い出されてしまうのだろうか?
しかし。
彼女はただの使用人に過ぎず、口を出すことなどできない。
全て蒼井華和のせいだ。
蒼井華和さえいなければ、蒼井紫苑は今頃蒼井家の唯一のお嬢様で、誰も蒼井紫苑を追い出すなんて考えもしないはずだ。
そう思うと。
高城ママの心は後悔で一杯になった。
本当に、一時の慈悲が後の災いを招くものだ!