娘を死なせたのは彼女だった。
弔問に来た人々も橘艶子を慰めようとした。
前を向くように諭した。
「莉々のお母さん、悲しまないで。莉々はただ早めに天国に行っただけですよ」
「そうね」
「莉々ちゃんは天国で、お母さんがこんなに悲しんでいるのを見たくないはずです」
「……」
橘艶子はそのまま氷の棺の前に跪き、涙が一滴また一滴と落ちていった。
蒼井華和は軽くため息をついた。
この母親をどう慰めればいいのか、まったく分からなかった。
モチ子は蒼井華和を見上げてから、また氷の棺の前に歩み寄り、前足を上げて棺を叩いた。
棺の中の人が何の反応も示さないのを見て、また「ワン」と一声鳴いた。
しかしモチ子がどれだけ鳴いても。
榊原詩々は以前のように笑顔でモチ子の頭を撫でることはできなかった。
モチ子は焦って鳴き声を上げ、蒼井華和の周りを回り始めた。まるで蒼井華和に榊原詩々を起こしてほしいと言っているかのように。
蒼井華和はしゃがみ込んで、モチ子の頭を撫でながら「詩々はもう行ってしまったの。私たちで見送ってあげましょう、いい?」
「ワン!」
「いい子ね」
蒼井華和は立ち上がり、榊原詩々の氷の棺に向かって深々と一礼した。
榊原詩々との思い出が、映画のように次々と目の前に浮かんでくる。
「お姉ちゃん、私が大きくなったら、お姉ちゃんとモチ子を連れて世界中を旅行するの」
「お姉ちゃん、世界一おいしいタピオカミルクティーを飲ませてあげる」
「お姉ちゃん……」
胸が突然締め付けられるように苦しくなり、呼吸ができなくなった。
どうしてこんなことになってしまったのか、分からなかった。
榊原詩々はまだ十二歳だった。
人生はこれから始まったばかりだったのに。
一方。
橘艶子はもう泣き疲れていた。
明日は榊原詩々の出棺の日だった。
橘艶子の故郷の習わしでは、子供が早世した場合、両親が遺影と骨壺を持って埋葬しなければならなかった。
橘艶子は夫と離婚して何年も経っていたが、今や詩々が亡くなった以上、母親として高城成にこのことを伝えなければならなかった。
橘艶子は自分でもどうやって高城成に電話をかけたのか分からなかった。
「もしもし」
向こうの高城成は息子の誕生日パーティーで忙しく、元妻からの電話を見て眉をひそめながら電話に出た。「もしもし」