しかし、電話の向こうから電源が切れている状態が伝わってきた。
電源が切れている?
榊原詩々は電話の電源を切ることはめったにないはずなのに。
蒼井華和は眉をひそめた。
心の中で突然、不吉な予感が湧き上がった。
そのとき。
一台のパトカーが路肩に現れた。
二人の警官が小走りで近づいてきた。
「蒼井華和さんでしょうか?」
「はい」蒼井華和は軽く頷いた。
二人の警官は警察手帳を見せ、続けて言った。「蒼井さん、実はある殺人事件の被害者とあなたに関連があるようです。署まで同行して調査にご協力いただけますでしょうか?」
「はい」蒼井華和は続けて尋ねた。「誰なのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「榊原詩々さんです」警官は答えた。
蒼井華和の顔が一瞬で真っ青になった。
足取りさえも不安定になった。
「詩々......」
この瞬間、蒼井華和は幻聴を聞いているのではないかと思った。
どうして榊原詩々なんだろう?
昨夜まで一緒に食事をしてタピオカミルクティーを飲んでいたのに......
二人は今日、モチ子を食べに行く約束までしていたのに。
榊原詩々の笑顔が目の前に浮かんでいた。
しかし今日。
彼女は警官の口から「被害者」と呼ばれることになってしまった。
パトカーに乗り込んで。
蒼井華和は大まかな状況を把握した。
すぐに、パトカーは警察署の前に到着した。
記者たちはどこからか情報を嗅ぎつけたのか、パトカーが停まるや否や蒼井華和を取り囲み、この件について意見を求めてきた。
特に榊原詩々の養父、榊原満山について。
蒼井華和の表情は良くなかった。
「申し訳ありませんが、警察が結果を発表するまでは、誰もが容疑者となり得ます。そのため、誰かについて評価するつもりはありません」
警察が確実な証拠を掴むまでは、榊原満山に対するあらゆる悪意のある推測や呪いは、ネット上の噂に過ぎない。
「蒼井さん、つまり榊原詩々さんの養母も犯人の可能性があるということですか?」
「はい」
しかし今、高城ママはDVの被害者だった。
彼女は被害者なのだ。
この発言が出るや否や、すぐに反応する人々が現れた。
【人間なの?どうしてそんなことが言えるの?】