蒼井紫苑は目の前のアルコールの臭いがプンプンする、無精ひげを生やした中年男を見て、全身の血が逆流するような感覚に襲われ、背筋に冷や汗が次々と浮かんできた。
まさか。
これは......
これが高城桂子の言っていた、酒と賭博と女に溺れたクズ男。
榊原満山?
いいえ!
絶対に違う。
こんな父親なんていない。
蒼井紫苑は榊原満山の手を振り払った。「知りません!あなたなんて全然知りません!離れてください!」
榊原満山は簡単には蒼井紫苑を逃がすつもりはなかった。「芳乃、私はお前の父親だぞ!お前が良い子だということは分かっている!確かにこれまでお前を育ててこなかったが、ずっとお前のことを気にかけていたんだ!全ては、あの売女のせいだ。あの女のせいで、親子なのに親子として認め合えなかったんだ!」
そう言うと、榊原満山は蒼井紫苑を抱きしめ、泣き崩れた。
蒼井紫苑は吐き気を催すほど嫌悪感を覚えた。
どうしてこんな実父がいるのだろう!
いいえ。
認めない!
「あなたは私の父親じゃない!違う!」蒼井紫苑は叫ぶように声を上げた。「離してください!離さないなら警察を呼びますよ!」
榊原満山のような下等なクズは、彼女の靴の紐を結ぶ資格すらない。どうして父親になる資格があるというのか。
蒼井家当主の蒼井修誠こそが、彼女の父親なのだ!
榊原満山なんて何者でもない。
彼女が認めない限り、榊原満山は彼女に付きまとうことはできない。
「違うだと?」榊原満山の表情が突然険しくなった。「この生意気な小娘め、お前が何を考えているか分からないとでも思っているのか!言っておくが、私には親子鑑定書がある。逃げられると思うな。お前を育てなかったかもしれないが、法律上は私がお前の父親だ!お前は私に孝行しなければならない。一生私から逃れることはできないんだ!」
実の娘が高城桂子というあの売女と共謀して、自分を殺人犯に仕立て上げ、あわや命を落とすところだったことを思い出すと、榊原満山は蒼井紫苑を殺してやりたい衝動に駆られた。
蒼井紫苑に会いに来る前に、榊原満山は特別に弁護士に相談していた。蒼井紫苑との親子関係が証明できれば、蒼井紫苑は彼に扶養義務を負わなければならない。
結局のところ、彼は蒼井紫苑の父親なのだから!