蒼井紫苑のその言葉を聞いて、蒼井陽翔は呆然となった。
一瞬にして全身から力が抜けた。
顔面蒼白。
目の前にいるのが蒼井紫苑だとは信じられず、さらにそれが蒼井紫苑の言葉だとは到底信じられなかった。
「紫苑、紫苑、何を言っているんだ?」蒼井陽翔は椅子から立ち上がり、激しい感情で言った。「忘れたのか?夜に一緒に食事に行くって言ったのは君で、そして僕の家の下で待っていて、途中で君がバッグを...」
「蒼井陽翔!」早坂警部は眉をひそめ、厳しく叱責した。「静かに!」
蒼井陽翔は仕方なく口を閉ざし、蒼井紫苑をじっと見つめ、目には切望の色が満ちていた。
今聞いたことが全て幻聴であることを願った。彼と蒼井紫苑は幼い頃から実の兄妹以上に親しかった。蒼井紫苑はきっと彼のために証言してくれるはずだ!
間違いない!
蒼井紫苑は今や唯一の証人だ。もし蒼井紫苑さえも彼の味方をしてくれないなら、彼は本当に殺人犯になってしまう!
そう考えると、蒼井陽翔の額には冷や汗が滲んだ。
彼には理解できなかった。
なぜ自分がこんな状況に追い込まれているのか分からなかった。
蒼井紫苑は両手で口を覆い、数歩後ずさりした。「違う...違います...お兄さん、私は...この夜はずっと彤彤と一緒にいました。彤彤が証明できます。私はあなたに会っていません。どうしてそんな嘘をつくんですか?」
嘘?
蒼井紫苑が自分のことを嘘つきだと?
その言葉を聞いて、蒼井陽翔はただ蒼井紫苑を見つめ、目を見開き、瞳には信じられない色が満ちていた。
もし蒼井紫苑がバッグを家に忘れたから取りに行ってほしいと言わなければ、彼は絶対に蒼井紫苑の家には行かなかったはずだ。
しかし今。
蒼井紫苑は全てを否定している!
これは蒼井陽翔には到底受け入れられないことだった。
なぜ!
なぜ蒼井紫苑は彼にこんなことをするのか!
「上がれって言ったのは紫苑じゃないか!紫苑だったはずだ!」蒼井陽翔はもはや感情を抑えきれなかった。
さらには、目の前にいるのが本当に蒼井紫苑なのかさえ疑い始めた。
いや!
そんなはずはない!
蒼井紫苑がこんなことをするはずが
「蒼井陽翔、静かにしなさい!」そう言うと、早坂警部は早乙女の方を向いた。「蒼井さんを一旦別室に案内してください。」
「はい。」早乙女は頷いた。