そう考えて、柚木浩流は早坂警部の方を向いて尋ねた。「早坂さん、蒼井陽翔の方で証人はいるのか?」
早坂警部は首を振った。「いない。今のところ、全ての証拠は彼の自供だけだ」
しかし、自供なんて証拠になるのだろうか?
そう言うと、早坂警部は続けた。「それに、凶器から蒼井陽翔の指紋が検出された。被害者の体からも彼の指紋が見つかっている」
それを聞いて、柚木浩流は眉をしかめた。「蒼井紫苑は?」
「隣の取調室にいる」
玲姉は言った。「見てくる」
取調室の中では、蒼井紫苑の泣き声混じりの返答と、警察官の質問の声だけが響いていた。
「警察官さん、これは全て誤解だと思います。私は兄と一緒に育ちました。兄の人柄を知っています。彼はそんなことをするはずがありません!絶対に!」
「蒼井紫苑さん、蒼井陽翔は昨夜九時に君と会ったと主張しています。そして、君が彼に上階へ行ってバッグを取ってくるように言ったとも。正直に話しなさい。本当にそんなことをしたのですか?」