第08章 私はあなたのものを全て取り戻す

林富岡の視線に林夏美は怯えていた。鈴木末子は急いで夫の腕を取り、「夏美さっきはただ驚いて、清美のことが分からなかっただけよ。この何年も夏美が妹をどれだけ尊重してきたか、あなたも知っているでしょう」

林富岡が何か言う前に、すぐに林夏美を叱りつけた。「早く妹に謝りなさい」

「ごめんなさい清美ちゃん、さっきあなただと分からなくて、失言してしまって」林夏美は夏川清美に不意を突かれて取り乱したのだが、今は母が取り持ってくれたのを見て、すぐに謝罪した。頭を下げ、その可愛らしい顔には後悔と自責の色が満ちていた。姿勢も十分に低くしていた。

果たして林富岡の目つきは柔らかくなった。普段の林夏美が実に素直で分別があることを思い出し、本当に夏川清美と分からなかったのだろうと考え、さらに結城様がいることを思い出して手を振った。「早く来て、結城様にご挨拶しなさい」

「結城様」再び顔を上げた林夏美の目には情が溢れ、その一言は甘く切なく響いた。

夏川清美は鳥肌が立ち、ソファーに座って見物していた美しい男性に意味ありげな視線を送った。

結城陽祐は二人の女性から異なる視線を感じ、優雅に立ち上がった。「林社長、それではこの件は決まりということで、6月23日の婚約式はこちらで問題ないでしょうか?」

「はい、問題ありません」林富岡も急いで立ち上がった。婚前妊娠は確かに面目ないことだが、結城家のような名門と親戚になれるなら、この恥など何でもない。しかも先方が直接プロポーズに来てくれたのだ。

「林社長、お気遣いなく」結城陽祐は淡々と返事をした。その姿は典型的な貴公子の風格で、その妖艶なほどの美貌と相まって、人々は一目見るのも畏れ多いほどだった。

鈴木末子はまだ結城陽祐を林邸での食事に誘おうとしたが、丁重に断られ、急いで林夏美と一緒に見送りに行った。しかし林富岡に背を向けた時、夏川清美を強く睨みつけた。

夏川清美は何とも思わずに肩をすくめ、その高くて清秀な後ろ姿に目を向けた。二ヶ月後に林夏美は結城陽祐と婚約するのか?

何かしなければならないようだ。

心の中で計算しながら、夏川清美の瞳に笑みが浮かび、階段を上がっていった。

記憶を辿って夏川清美は林夏美の部屋に入った。屋敷の最も隅にある日当たりの最も悪い部屋で、林夏美が現在住んでいる部屋は、元々林夏美のものだった。

残念ながら鈴木末子母娘が引っ越してきた最初の週に、主人は寛容であるべきという理由で、「お客様」の林夏美に譲らされ、父親からの「分別がある」という一言の褒め言葉を得ただけだった。

それ以来、他人の巣を奪ってしまった。

夏川清美はこの狭い寝室を見回した。中には雑多な物が多く置かれ、倉庫のようで、隅にある一メートル幅の小さなベッドだけが、元の持ち主のものだった。

薄い灰色のシーツと、この暗く湿った寝室は、元の持ち主の灰色で弱々しく哀れな人生を物語っていた。

心が理由もなく締め付けられ痛んだ。夏川清美は胸を押さえた。「あなたが悲しんでいるの?」

誰も答えなかった。夏川清美の胸はさらに苦しくなり、前に進んでカーテンを開け、下で客を見送る三人家族を見つめた。「安心して、私があなたの全てを取り戻すから」

結城陽祐は視線を感じ、横を向くと狭い窗が見えただけだった。陽の光で人影は見えなかったが、心の中では確信していた。あの夏川清美という太った女の子がそこに立っているのだと。

三度の出会いを思い出す。女性は確かに目立たないほど太っているのに、不思議と一目で忘れられない決然とした、あるいは率直な、あるいは狡猾な桃の花のような瞳を持っていた。非常に対称的な桃の花の瞳と、太っているにもかかわらず不思議なほどバランスの取れた脚。

うん、潔癖症の目には心地よい。

車に乗ると、結城陽祐は林富岡とその母娘の懇願を無視して窓を閉め、健二に命じた。「林家のことを調べろ。それと...夏川清美のことも」

この名前を口にした時、結城陽祐は一瞬ぼんやりとした。あの伝説的に輝かしい女性、心臓外科の医学記録を幾つも打ち破り、最後は手術台の上で急死した女性を。

なぜ彼女とさっきのあの太った女性を結びつけてしまったのか、思わず首を振った。