第26章 理由もなく怒る結城様

林富岡との電話を切ると、夏川清美は110番に電話をかけた。

振り向くと、結城陽祐が木製の彫刻が施された手すりに寄りかかり、片手をポケットに入れ、意味ありげな笑みを浮かべて彼女を見つめているのが目に入った。

夏川清美は一瞬固まった。唇の端を上げている男を見つめながら、彼女は医学生として常に理性が感情に勝っていたが、この瞬間、もしこの男が黒髪に白い錦の袍を身につけていたら、きっとこの春の景色も霞んでしまうだろうと想像してしまった。

しかしそれは一瞬のことで、すぐに理性が戻り、先ほどの電話をどれだけ聞かれていたのか気になった。

「結城様は盗み聞きがお好きなんですか?」夏川清美は先手を打った。

「ここは私の家だ」結城陽祐は他人のプライバシーを覗き見たという自覚は全くなく、落ち着いた口調で悠然と答えた。

夏川清美は頷いた。「そうですね」

そう言って立ち去ろうとしたが、結城陽祐は動かなかった。「誠愛病院?送っていこう」

その口調には、面白がるような調子が混じっていた。

夏川清美が電話を受ける前から彼はそこにいた。林富岡の声は大きく、聞こえないはずがなかった。

夏川清美は立ち止まり、結城陽祐を振り返った。相手の言葉の真意を探ろうとするかのように。

「ついでだ」実際、結城陽祐自身もなぜそう言ったのかわからなかった。前回林家で彼は林夏美の置かれた状況を察知していた。先ほど彼女が林富岡との電話を切って警察に通報したということは、小さな問題ではないはずだ。

うん、突然興味が湧いてきた。

人生で初めてのことだった。

結城陽祐はこのぽっちゃりした女性に一体どんな面があるのか、とても気になった。

夏川清美は眉を上げ、目の前の男にそんな善意があるとは思えなかった。

「ついでに林さんを雇う誠意も示せる」結城陽祐の細長い琥珀色の瞳は、人を見つめる時、誠実で魅力的だった。

「では、遠慮なく」結城家の本邸は山の中腹にあり、タクシーを拾うのは不便だった。

彼女は今、風に当たるのは良くなかった。

「ふん」結城陽祐は眉を上げた。林夏美のような性格で、なぜ林家で何年も屈辱に耐えられたのか不思議だった。まさか猪を装って虎を食らうような策略か?