第40章 私が価値があると思えば価値がある

以前の佐藤清美ならこんな言葉を口にすることはなかっただろう。

雲さんは夏川清美の手を握りしめ、震える声で「清美……私のためにそこまでする必要はないわ」と言った。

この数年間、雲さんは清美が活発で可愛らしい小さな女の子から、臆病で自信がなく、大きな声で話すことさえできない娘に成長していく姿を見て、胸が痛み、心配でならなかった。

先ほど夏川清美が鈴木政博を傷害罪で告訴すると言った時、雲さんの心は温かくなった。

しかし、彼女は首を振った。

今や林家全体が鈴木の母娘に牛耳られ、林富岡も彼女たちを信用し切っている。さらに二ヶ月後には林夏美が結城家の次男と婚約することになっている。

結城家は名門中の名門。そうなれば、林夏美にとって清美を殺すことは蟻を踏み潰すようなものだ。

今、鈴木政博を告訴することは自ら死に道を選ぶようなものだった。